真田家のピンチ

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「頼みたいこと?」  真田さんがポケットから取り出したものは、使い込まれた鍵だった。 「これは……?」 「俺んちの鍵。悠が今うちにいるんだけど、今日これから面接行くとこ、採用なら今夜から働かせてもらえるかもしれなくてさ。その間に悠の面倒を見ててくれないか? それで、もしものことがあったらあいつを病院に連れて行って欲しい。礼は必ず返すから」  真田さんの家の鍵。  その中にいる、彼の大事な弟の悠くんの命……。 「こ、こんな大事なもの、私に…!?」 「ああ。大事だからな。失くすなよ」  私は震える手でそれを受け取った。  真田さんはここまで私のことを信頼してくれている。その重みをずっしりと感じた。 「それから──悠には今日のバイトの話、内緒にしてあるんだ。あいつには黙っててくんねえか」 「え? どうして……」  彼は言いにくそうにしながらも、腹をくくったように「あんたには世話になるから言うけど」と前置きし、 「うまくいけば金になるバイトなんだけど、悠にはずっと反対されてたんだ。でももう背に腹は代えられねえ。食ってくためには仕事の選り好みなんてしてらんねえからな」  綺麗だった瞳の奥にも闇を映して彼は言う。  どんなバイトなんだろう……? 悠くんにも言えないなんて……。  不安を感じたけど、真田さんの頼みなので素直にはい、と頷いた。  真田さんは「助かるよ」と安心したように呟いて、家の方向とは別の道へと歩き出していった。  大丈夫かな、真田さん。  心配なことが多すぎて頭が整理しきれない。  でもまずは例の件を確認しなくては。  私は矢野に再び電話をかけた。
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