カツアゲって、揚げ物じゃないんですか?

1/5
前へ
/159ページ
次へ

カツアゲって、揚げ物じゃないんですか?

 運命の日の朝、私は鏡の中の自分にうっとりしていた。  あまりの美しさに、ではない。 「見て! この完璧に地味でダサい姿。これなら私だって誰にもバレないわ。誘拐犯だって気づきやしない」  パーマをかけていなくてもフワフワとしていた長い髪を三つ編みにし、雪見だいふくのように白くて柔らかい頬にはわざとそばかすメーク。制服のスカートの丈は学校規定の長さジャストで、鞄も靴も飾り気のない、一般的よりも地味に──というよりむしろ貧乏くさいとまで言われそうなレベルのものを身につけた、完璧な一般市民の変装をした私がそこにいた。  私がわざわざ自分をデチューンしたのには理由がある。    自分が資産家の娘だと周囲に気づかれたら、またいじめられ誘拐犯にも狙われる。  矢野の助言で正体を隠すことにした私は、学校にいる間は『江藤ゆみ』と名乗り、この姿で学校生活を送ることにしたのである!  なお、学校側で真実を知っているのは校長先生のみである。某アニメ映画の冒頭ナレーションに語り口調が似ているのは偶然ったら偶然なのである! 「お見事です」  背後に立ち、私の髪に三つ編みを施している執事の矢野からもお墨付きがくる。 「見事なクソダサさですよ、姫。クラスの人気者には永遠になれない最強のモブキャラとしてあなたは燦然と輝くことでしょう。おお、ブラボー。さらば青春の光」 「それ褒めてるの? ねえ、褒めてるの?」 「さらにこれを装着していただけますと変装は完璧になるでしょう」 「え、聞いてる? って、何これ」  矢野は私の質問を無視して、私の顔に分厚いレンズのメガネをかけた。 「何このダサいメガネ」 「お父上からの入学祝いだそうです」
/159ページ

最初のコメントを投稿しよう!

94人が本棚に入れています
本棚に追加