お嬢様、悪役になる

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 笑顔の矢野に気圧されたホールスタッフは慌てた様子で「少々お待ちくださいませ」と言って誰かを呼びに行った。すぐに別の案内役がやってきて私に深々と頭を下げる。 「大変失礼致しました。いらっしゃいませ、お嬢様。どうぞこちらへ」  彼は店の中でも一番の上客が使うと思われる半個室の特等席へと私たちを案内した。完全な個室ではないけれど、仕切りがあって他の客からこちらが見られないように配慮されている。 「お嬢様には是非ともうちのナンバーワンをご紹介させていただきます」  さっきの案内人が、恭しい態度で一人の男を連れて来た。  整形でもしているかのように整った中性的な顔立ちの細身の男だ。 「……ダメ」  私は彼をチラッと見て、ツンとした態度を取る。 「お気に召しませんか? では、ナンバーツーとスリーを両側に置きましょうか」 「結構よ」  そんな人たちに用はない。 「では……いかがいたしましょうか」  案内人が戸惑っているのを見て、矢野がすかさず言った。 「申し訳ございません、うちのお嬢様はちょっと特殊でございまして。実はこの方……三度の飯より貧乏人をからかって遊ぶのが趣味という鬼畜(きちく)なのです」  ──な。  何よそれ⁉︎  私は全力で矢野を睨んだけれど、涼しい顔の執事はにこやかに続ける。 「ぜひこのお話もご内密でお願いします。もしも世間に広まるようなことがあれば、うちの宮藤グループの力でこんな店簡単にぺしゃんこに……」 「は、はい! かしこまりましてございます!」  案内人は怯えたように私を見る。  なんで私なのよ。 「そういうわけでして──このお店で一番稼いでいないホストを連れてきていただけますか? 例えば、入ったばかりの新人ですとか」 「は……。新人……ですか? それなら、本日入ったばかりでまだ源氏名もないのが一人おりますが」  真田さんだ!  私は思わず立ち上がり、案内人の男にビシッと指を突きつけた。 「その人がいい! その人、今すぐ連れてきて!」
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