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「あなた、さっきから態度が悪すぎるわね。私に何か恨みでもあるの? どこかで会ったことがあったかしら?」
矢野はとりあえず無視して、私は必死で演技する。
そんな私を、真田さんは流し目で見た。
「あんたはもう覚えてねえか、俺のこと」
ドキーン! とハートがコイントスされたみたいに跳ね上がった。
そんな、ちょっと拗ねてるような口調で言われたら胸がキュンキュンしてしまうじゃないの!
「お、覚えてないわね。矢野、知ってる?」
「そういえば、ひと月ほど前に工事現場で姫がからかってやった男がいましたね。彼に似ている気がしませんか?」
「そ、そ、そ、そうだったかしら? そういえばそんなこともあったかも。渋滞で退屈だったから、ちょっと気まぐれに声をかけてみたんだけど」
「あんたのその気まぐれで、俺の人生はめちゃくちゃになったんだよ」
凄みをきかせて睨みつけてくる真田さん。シリアスな表情が痺れるほどかっこいい。
「そ──それで今はこんなところで働いているわけ? これだから……」
悪口を続けなければいけないのだけど、どうしても言えない。すると
「これだから、プライドのないゴミは嫌ですね。生きていくためには何でもするんですから、醜い醜い」
矢野が冷ややかにそう言った。
「何だとこの野郎」
「や、やめなさい矢野! 殴られるわよ」
真田さんが本当に殴りかかりそうな顔をしていたから私はヒヤヒヤしたけど、矢野は何故か余裕の表情でさらに挑発する。
「殴れるものなら殴ってください。ここをクビになっても良いんでしたらね」
私はハッとした。
そうか。
真田さんが怒って暴れるのを誘う作戦だったんだっけ。
真田さんが素敵すぎてうっかり趣旨を忘れるところだった。
それなら私もここは矢野に乗っかるべきだろう。
「そ、そうよそうよ、殴れるものなら殴りなさいよ! この矢野の顔を思いっきり殴ってみなさいよ!」
「姫……ご自分は殴られる覚悟ないんですね?」
「だって痛そうなんだもん……」
挑発の裏でこっそりとそんな話していると、真田さんは悔しそうに拳を握りしめた。
「そうか。お前ら、それが目的か。また俺がクビになるのが見たいってわけか? ふざけやがって……。これ以上お前らの思い通りにさせてたまるか」
ヤバい。
真田さん、本気で怒ってる?
怒った顔も死ぬほどかっこいいけど、そんなことを言っている場合じゃなかった。
「お前らが何度邪魔しようと、俺は絶対に意地でもここで働いてやるからな」
なんか、変な覚悟決めちゃってるし!!
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