お嬢様、悪役になる

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 非情になりきれない私にしびれを切らしたのか、矢野がため息をついた。 「では僭越ながらこの私、矢野があの男に姫のお言葉としてムチャブリをさせていただくことになりますが、それでよろしいですね?」 「えっ?」  矢野はキランと瞳を輝かせ、真田さんに命令した。 「まずは手始めに肩を揉んでください。今日はとにかく疲れましたのでね。誰かさんのおかげで」 「なんだ、そんなことか」  真田さんは矢野の隣に座り直し、背中を向けた矢野の肩に手を置いた。 「優しくお願いしますよ。私は繊細なので」  ああああああ〜〜〜!! 羨ましい〜〜〜〜!!!  真田さんが矢野の肩を揉んでいる。矢野はクレームをつけようという魂胆だったんだろうけど、「そこっ! もう少し強くお願いします」って、ちょっとマジで注文をつけている。 「はあ、全然ダメですね。やっぱり宮藤家のマッサージチェアの全身もみほぐしモードじゃないと、私の疲れは取れません。こんな野蛮な男のゴリ押しマッサージごときでは、この私を癒すことなど到底無理ですね」  昇天しそうな顔をしておいて何を言うか。 「わ、私も! 私もお願い!」 「いえいえ、姫はやめておいた方がいいです。この男の貧乏が移りますよ」 「そんなもの、移るわけないでしょ! ずるいわよ、あなたばっかり!」 「さて、次は何か余興でもしてもらいますか。B'zの稲葉さんのモノマネでUltra Soulを全力で熱唱してください」  ちょ。マジでやめて!  なんか分かんないけど、それものすごく危険な香りがする! 「誰だそれは」  真田さんはテレビを持っていないから芸能人に疎い。助かった。 「モノマネもできないなんてつまらない男ですね。元ネタを知らないのではお話にならないじゃないですか。仕方ない、次は私の靴でも磨いてもらいましょうかねえ」 「もう、いい加減にしなさいよっ! 次は私の番でしょ!」  真田さんを取り合って矢野と言い争っていると、真田さんの方からため息が聞こえてきた。 「……テメエら、マジで遊びに来たんだな」  振り向くと、彼は虚しそうな目をして足元を見つめていた。
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