カツアゲって、揚げ物じゃないんですか?

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 鏡に映った自分は牛乳瓶の丸い底を二つ、顔の前にぶら下げているように見えた。 「これは一見普通のダサいメガネですが、実は我が宮藤グループの科学技術班が独自に開発したミラーメガネでして、かけている本人には周りがよく見えるけれども周りからは瓶底を覗いているかのように目の印象がぼやけて見えるという、画期的な仕上がりになっているのです。元々は警視庁の刑事から尾行の際に犯人に目の動きを読まれないようにしたい、との要望があって開発されたものなのですが、逆に犯罪に利用される恐れがあるため、世には流通されていないという、かなりのレアブツなのですよ」 「へえ〜すごい。やるわね、うちの科学技術班」 「姫にとってはうってつけのものだと思いまして。姫の目は大きくてつぶらで愛らしくて無駄に目力がおありですから」 「無駄に、は余計でしょ」  矢野はいつも何か一言多い。  けれども、確かにこれをかけると地味さが三割増しになる。たて幅の大きいフレームのおかげで真横からでも目が見えにくい。  変装は今度こそこれで完璧になったと言えよう。 「それでは、行ってくるわね」 「くれぐれもお気をつけて」  矢野は直角の角度で頭を下げながら言う。 「出発予定時刻よりもう十分も遅れていますが決して慌てませんよう」 「えっ⁉︎ あああっ、本当だ! 十分押してるじゃないの! 遅刻しちゃう! 何でもっと早くそれ言わないの⁉︎」 「姫が鏡の前で時間を気にせず喜ばれていたので……微笑ましくてお声がけできませんでした」  頭を戻しながら黒い笑みを浮かべる矢野に「バカ!」と吐き捨て、私は自室を飛び出した。
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