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「……ねえ。どうして矢野はそんなにあの人を嫌うの?」
私は純粋に気になったから尋ねた。
矢野はわずかに眉を上げて動揺を見せた。
「どうしてって言われても……なんか気に入らないんですよ」
「そんなの理由になってないじゃない」
「じゃあ一つだけ挙げるとしたら、なんだか男らしくないというか」
「真田さんのどこが男らしくないのよ」
彼ほど硬派で男らしい人はいないと思うけど。
「たしかに、工事現場をクビになったのは姫のせいかもしれませんが、それ以前から彼は姫に対する態度が異常に冷たすぎました。もしかしたら、姫個人ではなく、金持ち全体に対して何か特別な拒否反応があるのかもしれません。以前、金持ちに酷い目に遭わされたとか、彼らが貧しい暮らしを強いられた原因を作った人間が金持ちだったとか。彼はその恨みを、姫にぶつけているだけのように見えるんです」
「そう言われてみれば……お嬢様の私にだけちょっと冷たすぎるかも」
江藤ゆみの時はそんなことなかったのに。
「だからこそ、姫に対するあの男の八つ当たり的な態度が私は許せないんです。恨みがあるのか何なのか知りませんけど、金持ちと一括りにして無関係な姫にも冷たく接するなんて男らしくないですよ。それなら私の方がずっとずっと百倍くらい男らしいですよね。ってゆうかイケメンですよ! あんな服着たらもう私が絶対あの店のナンバーワンですよ!」
「……やっぱりひがんでたのね、矢野」
彼の力説の後半部分はさておき、前半の推測にはかなり頷けた。
完全に嫌われていると思っていたけど、それがどうしてなのか今までは曖昧だった。
だけど、もしも矢野の言う通りだったら。
彼が私のことをお金持ちというフィルターを通さずに、一人の女の子として意識してくれさえすれば──。
頑張ればいつか、彼が私に心を開いてくれる日が来るかもしれない……?
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