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真田はセットされている髪をかきむしりたくなった。
何故あんな奴らのことをいつまでも気にしてしまうのだろうか。
あいつらは憎むべき敵だろう。
考えるなと頭に命令する。けれども、また時間が経つとふと思い出す。
そんな自分が嫌になってしまう。
「おい、新人」
その時、スタッフの男が真田を呼んだ。
「お前に電話。なんか、すごく必死な女の声だったぞ」
女?
誰だろう。まさか、さっきのお嬢様──宮藤愛姫?
そんなはずはないと思いながらレジ横の固定電話に急ぐ。
『もしもし、真田さんですかっ?』
「あんたは──」
電話をしてきたのは江藤ゆみだった。
いろいろあったので彼女のことはすっかり忘れていた。
彼女にバイト先がここであることは言わなかったはずだが、恐らく弟の悠から聞いたのだろう。
彼女の声は震えていた。嫌な予感がする。
「どうした」
『あ、あの、今、玄関に宮藤愛姫さんっておっしゃる方の執事さんが来て──強引に悠くんを連れて行ってしまったんです!』
「悠を⁉︎ どこへ⁉︎」
『多分、宮藤さんのお屋敷です……ごめんなさい……』
電話の向こうでゆみが泣き出す。
悠はちょっとでも動かしたら発作が起きかねない危険な状態なのに。真田は愕然としてその場に崩れそうになった。
──一つだけ教えて。
──あなたはここで働いたお金で……何を手に入れるつもりなの?
──何も。ただ、守りたいだけだ。
──弟の命を。
あの時のやりとりが彼の脳裏に蘇る。
──私に恥をかかせたこと……必ず後悔させてやるから。
「あの女──後悔させるって、こういうことだったのか……!」
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