【番外編】眠れない夜をあなたと【これまでのおさらい】

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【番外編】眠れない夜をあなたと【これまでのおさらい】

 あるところに、ひとりのお嬢様がいました。  彼女はとても心優しく、貧しき者にも平等で、誰からも愛される人柄でしたが……そんな彼女がひとりの男と出会い──。 「ド変態になってしまいました」 「……矢野。やめて」  何よその話! と私はベッドから飛び起きた。 「何って、姫の話じゃないですか」  矢野は白いマスクの下でこほんと咳払いをした。 「興奮して眠れないから、何か話をしてと丑三つ時に呼び出されたんですよ? こっちは眠いんですけどね! 誰かさんのせいで眠いんですけど! 怪我もしましたしね!」  これ労災おります? と言って矢野はマスクの片側を外し、殴られて少し腫れ上がってしまった頬を見せた。 「ちょっと奥歯がグラグラしてる気がするんですよね。誰のせいでこうなったんでしたっけ?」 「ごめんなさい……ボディーガードを雇い忘れた私のミスね」  嫌味ったらしいんだから。心の中で呟きつつ、私は布団の中におとなしく潜った。  私が眠れなくなったのにはワケがある。  始まりは今からおよそ一ヶ月前のことだ。  幼少時代のトラウマがあってずっと家庭内学習をさせられていた私が、初めて一般の高校生となることを許された朝、私は路上でひとりの素敵な男性に出会った。  それが真田陽(さなだよう)さん──彼の強い信念と熱い正義感と清らかな金銭感覚を目にした私は、彼に運命的な一目惚れをした。  けれども彼はドがつくほどの貧乏で、しかもお金持ちが大っ嫌いだということが発覚。  私はなんとか彼に楽をさせてあげたくて手を貸そうとしたんだけど、逆に彼を貧乏のどん底に叩き落としてしまい、その結果──彼は高校生の身でありながら水商売のバイトをするという危ない道を渡ろうとしたので……。 「なんとか踏み留まらせるために、なんやかんやあって、姫はド変態になってしまいました」 「だから、やめてってば! 私の回想にまで入ってこないでよ!」 「そのなんやかんやの中に真田陽の私に対する暴力行為が含まれております」 「うるさいわね! もういい、私が悪かったからさっさと寝てきなさい!」  はーい、と軽く返事をして、矢野は眠そうにあくびをしながら立ち上がった。
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