【番外編】眠れない夜をあなたと【これまでのおさらい】

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 あんな男、呼ぶんじゃなかった。  矢野が閉めていったドアに向かって思わずストレートパンチを繰り出す。  ……そうだ。  電話しちゃおうかな……? あの人に……。  矢野の言うなんやかんやがあった後、宮藤家に仕えることになった、真田陽さん。  彼は今、私の屋敷と隣接する従業員用の寮の中にいる。  彼の弟の入院費という借金を返済するまでずっと、彼は私のそばにいる。  そう思うだけでドキドキしてきた。  眠れなくなったのは、彼のせいだ。  彼のせいなら、彼に責任を取らせよう。  冗談半分で彼の部屋の内線番号を押してみる。でも、いざ最後の通話ボタンを押そうとしても手が震えてしまって駄目だった。  彼もきっと今頃、睡眠不足で栄養も足りてない体で、くたくたに疲れ果てているはず。  やっぱりいけないわよね。  ただ声を聞きたいから電話しちゃうなんてわがままなこと……。  仕方がないから、私は妄想の中で彼に会うことにした。  こんな時間に私に呼び出された真田さんは、きっととても不機嫌そうな顔をしていて──。 「何か用か、お嬢」  って、ぶっきらぼうにそう言うの。それから、 「眠れねえから添い寝でもしろってのか?」  なんてドキドキさせるようなことを言ってくれたりして。キャー! 「うん、そ、そうよ! 私が眠れるまでそばにいて。これは命令よ!」    ムチャブリのわがままを言っちゃう私のそばに寄ってきた彼は、目の前でため息をつく。  そして困ったように頭をかいて、渋々私の隣に寝そべって、 「早く寝ろよな」  って、頭を抱いてくれる……。  きゃああああ! もう、最高! 鼻血が出ます! 妄想の神様、ありがとう! 私に素晴らしい妄想を授けてくれてありがとうございます!!  ダメダメ、こんなん考えてたら朝まで眠れなくなっちゃう。  ベッドの中でのたうち回っていたその時だった。   『何か用か、お嬢』  耳元で真田さんの声がした。  えっ。  私は思わず飛び起きた。  今……電話の向こうで真田さんの声がした?  
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