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ハッとして握りしめていた子機を見る。内線ボタンが光って、通話中になってる!
一人でエキサイトしているうちにうっかり通話ボタンを押してしまったらしい。
わああああ! 私のバカーッ!
『今、何時だと思ってんだ。非常識にも程があるぞ』
「ご……」
ごめんなさいなんて言ったらキャラがブレるからギリギリで踏みとどまる。
「いいじゃない。退屈なのっ、ちょっとだけ話しましょ?」
『……』
真田さんは黙っていたけど、一方的に切ったりはしなかった。話していてもいいのかな? ドキドキしてベッドの上で正座する。
「寮のベッドはどう? 寝心地がいい?」
『フカフカしすぎて……寝られねえ』
可愛い!!
真田さんも寝付けなかったのかな。お布団フカフカさせすぎてごめんなさいっ!
「明日からしっかり働いてもらうんだから、ちゃんと寝なきゃダメよ」
『こんな時間に電話かけてきたくせに……』
「それは、あなたがちゃんと寝てるかどうか確認しようと思って」
『無茶苦茶な言い草だな……』
「とにかく、電話が終わったらすぐに寝るのよ! 分かった?」
『……言われなくても、寝る』
可愛くない態度。
でも、何だか嬉しい。
『俺はここで何をしたらいいんだ?』
「そうね。まずは雑用だと思うけど──あなたの特技は何かないの?」
『……別に』
兄ちゃんは料理人になりたいんだって悠くんが言っていたことを思い出す。
特技、立派なのがあるじゃない。
「今、厨房の皿洗いが足りないってコックが言ってたかも。そこで働いてもらおうかしら」
『本当か?』
ちょっと食いついたかな。
嬉しさをひた隠しにしているのを感じてまた可愛く思う。
「しっかり働いてね。私のために」
『弟のためだ』
「私のためって言ってよ」
深夜のせいか、ちょっと大胆なこと言ってる私。
『それは……命令か?』
「そうよ。命令!」
はあ、と呆れたようなため息が彼の口から漏れる。
緊張する。
心臓の音が真夜中に溢れ出しちゃいそう。
すると。
『……しっかり働く。弟と……お嬢のために』
そして、電話は勝手に切られた。
「うふふふふ……♡」
不気味な笑い声が私の口から漏れて止まらなくなった。
やばい。これじゃ本物のド変態だ。
私はお布団を抱きしめて笑いを堪えた。
結局、その夜は一睡も出来ないまま翌日の朝を迎えてしまった。
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