【番外編】矢野執事、新入りの雑用をいびる

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【番外編】矢野執事、新入りの雑用をいびる

 私の名前は完璧執事、矢野。  いつもはイケメンすぎる笑顔でメイド達にキャーキャー言われている私ですが、本日はマスクの下に笑顔を封印しています。  理由は聞かないでくださいね。殺しますよ。  さて、今私の目の前にある男がいます。  昨夜からの飛び入りで、宮藤家の雑用係をさせることになっている貧乏野郎、真田です。  私の頬を殴って腫れあがらせたカス野郎と言い換えることも可能です。  宮藤家が支給した雑用の制服が似合っていると言えなくもありません。もうちょっとダサいデザインの服を与えたかったのですが、あいにく宮藤家のお抱えデザイナーは超一流で、どんな貧乏もそれなりにイケてるように見えてしまうのです。デザイナーの腕が良すぎるのも考えものですね。  その貧乏男──真田が、わがままなうちの姫の要望で、本日から宮藤家の厨房で皿洗いをすることになりました。   「こちらの皿、全部一人で洗ってください」 「一人で?」  真田の顔が一瞬曇ったのを私は見逃しませんでした。  本日はたまたま土曜日。定期的に行われている立食ランチパーティーの開催日です。  ホストの雅臣様はただいま出張中で不在ですが、そんな状況が多い宮藤家では一人娘の愛姫様が寂しがらぬようにと、週末に時折楽しげなゲストを招いて庭で小さな宴を催されるのです。  厨房は大忙しで、次から次へと料理が運ばれます。  それと同時に、空いた皿も次から次へと厨房に返ってくるのです。  この雑用を使わない手はありません。 「他に皿洗いはいないのか」 「あいにく、料理人以外は体調を崩してしまって」  本当は私が急遽使用人たちに暇を取らせたことは秘密です。バラしたら殺しますよ。  目の前には数十人が使った皿、百枚以上が積まれています。 「姫のご命令ですから、しっかりと働いてくださいね」 「……あの女……」  真田は姫への憎しみを募らせたようでした。  何も知らない姫には申し訳ありませんが、この男から永遠に嫌われておいてもらいましょう。  その方が私にとっても都合がいいのですから。
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