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ちょっとイケメンだからって、姫のハートをあっさり奪ったこの男を私が許しておけるわけありません。
雅臣様に代わって、この私が必ずや破局へ導いてやりますよ。
こうして、厨房の洗い場に彼を放置しておくこと二時間。
パーティーがそろそろお開きになりそうだったので、私は回収した皿を数枚抱えて厨房を覗きに行ってみました。
あの男が皿を割っていたりしたら儲けものです。借金を膨らませるか、即刻クビを言い渡すか、一生グチグチ聞かせてやるか、どれかを選択できるのですから。
まあ、ちゃんとやっていたとしても一人で洗いきれる量ではありませんので、「グズ」「ノロマ」「でくの坊」くらいの悪口は言えるでしょう。
そう思って厨房のドアを開けたところで、ガチャン! と皿の割れる音がしました。
私は思わずほくそ笑みました。
「何をしているのですか、今の音は──」
「出ていけ! 役立たず!」
私と真田の怒鳴り声が被りました。
役立たず?
それは私への罵倒でないことは確かでした。
「ふ、ふんっ! わざとよ! でもそんな言い方しなくてもいいじゃないっ!」
「破片に触るな! もういいから出ていってくれ! ……ちょうど良かった、執事が迎えに来たぞ」
彼と怒鳴り合っていた人物が振り向きました。私はその顔を見て脱力しました。
「……姫」
「あっ、矢野。こ、これはね、別に真田を手伝おうとしたわけじゃないのよ? 一人でこんなにたくさんの皿洗いをしている真田を心配したとか、そういうことじゃなくてね、邪魔してやろうと思っただけで……」
「すげー邪魔だった。早く出てけ」
真田はうんざりした顔をして割れた皿を箒で集めていました。
おそらく、姫が割ったのでしょう。
それも、一枚やそこらではなかったようです。
「汚れた皿はそれで最後か?」
私が抱えていた皿を見て、真田が受け取りに来ます。他の皿はすっかり綺麗になっていました。
適当に洗ったのではないかと表面を撫でてみましたが、どれもツルツルのピカピカで文句のつけようがありません。
私は仕方なく姫を連れて厨房を退散するしかありませんでした。
ギリッと奥歯を噛もうとしたら頬に痛みが走り、余計腹が立ちました。
あの男はいつか殺します。
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