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「姫。そこに座ってください」
「座ってます」
姫の私室で、姫は床に正座で私を見上げています。
「なぜあの男を助けようとしたのですか? せっかく私がいび……いえ、この屋敷に慣れてもらうために与えた初仕事なんですよ? 手伝ったら、仕事をなめてかかるようになってしまうじゃないですか」
「分かってるけど、あまりにもお皿の量が多かったから、つい……」
「そもそも、ホストである姫がパーティーを抜け出すこと自体が非常識です! ゲストの皆さんに失礼ではないですか」
「それは、そうね。悪かったと思っているわ。でも……」
姫はぼんやりと夢うつつのような顔をしました。
真田のことを思い出しているに違いありません。
「キビキビと働く姿がカッコ良くて……帰れなくなってしまったの。私がお皿を割ってしまったらすぐに来てくれて、怪我はないかって心配してくれて、危ないから触るなって言いながら全部片付けてくれたのよ。なんて優しい人なのかしら」
「それは、姫に怪我をされたら宮藤家からどれだけ請求されるか分からないからでしょう」
「あの人はそんな打算的なことを考えたりしないわ。心から仕事に真面目で純粋な人なのよ。手伝いに来た私にも一切甘えることはなくて、全部自分でやろうとしていたわ」
「それは姫が本当に邪魔だったからでしょう」
「そんなことないもん! 私だって少しは役に立ったはず!」
「皿を四枚も割っておいて何を言いますか」
私は頭の中で電卓を叩きました。
「今回割れた皿の代金はあの男の給料から天引きします」
「そんな! 鬼! 悪魔!」
「何とでもおっしゃってください。余計なことをした姫が悪いのです。しっかりと反省なさってください」
私は姫からの罵倒を背に受けながら、彼女の部屋を出ました。
「……嫌われてもらわなくては、困ります」
いつか姫の真心が伝わって、あの男の心が姫の方へと引き寄せられる前に。
──あの男を潰します。
姫のあどけない笑顔が、私の頭の中で一瞬だけ再生されました。
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