幸せな朝

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幸せな朝

 いつもだったら、一週間で一番嫌いな月曜日の朝。  私は目覚まし時計よりも早く起きて、タマゴのサンドイッチとスープと採れたて野菜のサラダを食べ、余裕を持って江藤ゆみの姿に変身した。   「ご機嫌がよろしいですね、姫」  矢野が私の髪をみつあみにしながら話しかける。 「まあね」  さすがね、矢野。  私が密かに胸を躍らせていることを一発で見抜くなんて。  この土日、私は自分のイメージアップに余念がなかった。  意地悪で貧乏人を見下している変態お嬢という最悪のイメージを払拭するために、厨房で皿洗いする真田さんを手伝ったり、偶然を装って彼に近づいて、それとなく労りの言葉をかけてみたり、優しいお嬢と思ってもらえるように彼の前でメイドたちにも優しく振る舞ってみせた。  今日はその成果を、真田さんの口からいよいよ聞き出す。  愛姫お嬢様のことをどう思っているのか──江藤ゆみの姿で尋ねればきっと、私自身には言いにくい本音も引き出せるんじゃないかと思うのだ。  ほんのちょっとでもお嬢様の私に好意を持ってくれていたらいいんだけど……。 「そんなご機嫌な姫に朗報があります」  矢野が鏡越しに笑みを向けてきた。 「えっ? なになに?」 「本日、雅臣様が出張からお帰りになります」 「えっ⁉︎ パパが⁉︎」  一瞬喜びそうになったけど、パパの帰りはまだ先だったはずだと思い出す。  うちの会社はいろいろな系列を作っているけど、一番の事業はリゾートホテル地の開拓や建設だ。パパはそのために日本中の観光地を視察していて、月に三回家に帰れればいい方だった。   「どうして、急に?」 「何やら姫に大事なお話があるということで」 「大事な話……?」  私は何だか嫌な予感がした。  だって、鏡の中の矢野の笑顔が怖いんだもん。
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