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心配の種は植え付けられてしまったけど、私はそれを頭の隅に追いやって家を出た。
宮藤家の使用人寮の近くにある門とは反対の門から外に出て、ぐるっと半周すると、真田さんとちょうど良く宮藤家の前で出会ったような形になる。
「真田さーん!」
ゆみの姿で手を振りながら走って近づくと、彼は驚いたようにこっちを見た。
「おはようございます! こんなところで会えるなんて、偶然ですねっ」
「本当だな。びっくりした」
「私、ここ通学路なんです。真田さんも?」
「ああ……訳あって、一昨日からここで住み込みで働いてるんだ」
そこで真田さんはハッと気づいたように私を見た。
「そういえば──この前は悠のことで心配かけて、悪かったな」
「いいえっ、私こそ何もできなくてごめんなさい! 悠くんは無事だったんですか?」
お嬢様の私は誘拐犯だったけど、ゆみは被害者で、悠くんが攫われてからの事情は何も知らないっていう体になっている。ややこしい。
「実はあの誘拐犯、ここのお嬢だったんだ。それで、悠の命を助けてやる代わりに、下僕になれって脅されて……借金を返すために仕方なく働くことになってさ」
……事実だけど。
第三者の立場からすると、私ってめちゃくちゃ悪者じゃない⁉︎
「な、何ですかそれ。無茶苦茶じゃないですか」
声が震えちゃう。
「まあ、悠が無事ならいいんだ。高い治療費とか入院費も働きながら返せるし、寝る場所や食う物も与えられてるし」
「そうなんですか……」
真田さんが歩き出したから私もついていく。
二人で並んで登校するなんて、夢のようなシチュエーションだ。
私に心配をかけて悪かったと思っているのか、今日は真田さんの態度もやわらかい。聞きたいことをいろいろ尋ねるチャンスだ。
「宮藤家で生活してみて、どうですか? 何か困っていることとかはありませんか?」
「そうだな……困っているっていうか、びっくりしたことがあって」
「どんなことですか?」
「……トイレが部屋の中についてた」
「!」
私はぎゅっと唇を結んだ。
笑っちゃいけない。
真田さんは真面目な顔をしているから、これはマジ話!
「あと、テレビがついてた。エアコンもあった。加湿器まであって、どうやって操作したらいいのか困っている……」
「ふ……」
もう、笑っちゃダメだってばー!!
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