幸せな朝

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 ああ、きっと怒られる!  その瞬間、メガネを通して全部見ていただろう矢野の顔が私の頭にパッと浮かんだ。 「ゆ、悠くんの代わりに! ですよ、真田さんとお出かけしたことを悠くんに後でお話ししようと思っているだけです! 本当に、変な意味じゃなくて」    私は必死で真田さんとメガネの向こうの執事、二人に言い訳する。  そんな私を見て、真田さんは滅多に見せない笑顔を浮かべた。 「分かった」  え?  今、分かったって言った?  時間が止まってしまった私に、真田さんは 「いつがいい?」  と優しく問いかける……。  これは夢じゃないよね。  もしかして、私、真田さんとデートの約束しようとしてる?  嬉しすぎて、鼻血が出そうです。 「じゃあ……今度の日曜日……」 「分かった。執事とお嬢に外出させてもらえるか聞いてみる」  どうしよう。  ワクワクとヒヤヒヤが私の中で同時に進んでいく。  先の見えないジェットコースターに乗っているみたいでちょっと、いやだいぶ怖い。  だけど、私にとっての本当のピンチはまだこの先にあった。 「……そうだ、俺からもひとつ頼みがあるんだけど」  真田さんが思い出したように言う。 「な、なんですか?」 「大したことじゃねえんだけどさ」  真田さんはそう言うと、ちょっと恥ずかしそうに私から目を逸らして言った。   「そのメガネ……当日は外してきてくれないか」  ◇ 「お帰りなさいませ、」  その日の夕方、帰宅した私を待っていたのは、笑顔なのに額に青筋を立てている矢野だった。  丁寧すぎる物言いがなんとも恐ろしい。 「今朝から大変なトラブルに巻き込まれましたね。私は冷や汗が止まりませんでした」 「私も……です」  彼はまだみつあみにメガネ姿の私を床に正座させ、お説教モードで私を見下ろしていた。 「何故あんな約束を?」 「やっぱりダメ?」 「ダメです。ダメに決まっているじゃないですか」 「そこを何とか……」 「姫」  矢野から笑顔が消えた。消えたら、あんな笑顔でもあった方がマシだったと思えるくらい怖かった。 「メガネを外したらどうなるか、あなたも分かっているでしょう? どうしてOKしてしまったんですか!」
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