幸せな朝

8/8
前へ
/159ページ
次へ
 そう。  真田さんにメガネを外してくれって言われて、私は「はい……」と答えてしまったのだった。   「だって、真田さんが私の顔を見たがっているんだって思ったら、嬉しくなっちゃって……。それって、真田さんが私のことを気になってるってことでしょ? もしかして、私のこと好きになってくれたのかも……きゃあああ、どうしよう!」  矢野は大きな舌打ちをした。  主人に向かって舌打ち? とは思ったけどツッコミできなかった。 「しかし、もしそれで正体がバレるといったことになったらどうします? その後、真田との関係はどうなるとお思いですか?」 「ええと……」  私は想像してみた。  もし、ゆみ=私だということがバレたら。   「ゆみはお嬢だったのか……! っていうことは、今までのことは全部悠と俺を助けるために……? お嬢、本当はあんた、いいやつだったんだな。今まで散々悪口を言って悪かった」  真田さんは反省&私に感謝する。そして、 「お嬢に惚れた。俺と付き合ってくれ」 「真田さん、嬉しい! 私もずっと真田さんのことが好きだったの……」  二人は結ばれ、ハッピーエンド。 「──かな? どうこれ」 「いっぺん死んでください」  矢野の瞳はマイナス196度の液体窒素より冷えていた。 「姫は楽観的に考えすぎです。私だったらこのように想像します。『ゆみはお嬢だったのか……』とまずは愕然、それから憤慨でしょうね。今までのゆみのサポートは嘘だった。全ては、自分を姫の下僕にするためのだったのだ、と考えることでしょう。信じていた者に裏切られるほど苦しいことはありません。もう二度と他人なんか信用するものか、と彼はますます心を閉ざすことでしょう」 「そんな……!」 「少なくとも、騙していたのは事実なんですから、ほんの少しでも姫が悪い人間ではないとあの男に気づかせた後で正体を明かさないと、姫の悪役返上は不可能ですよ。姫の今までの努力も献身も水の泡になるでしょう。そういうわけで、二人きりのデートは時期尚早。あの男には当日山ほどの仕事を与え、一歩も屋敷から出られないようにしておきます」 「ひどいわ! そんなのかわいそうよ!」 「姫が悪いんです! 本当に毎度毎度余計なことを──」  その時、私の部屋のドアがコンコンとノックされた。 「はーい」  こんな時に一体誰だろうと思いながら立ち上がると。 「お嬢、いるか」  ドアの向こうから、真田さんの声がした。
/159ページ

最初のコメントを投稿しよう!

94人が本棚に入れています
本棚に追加