episode⑥

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ゆっくり指先ケアをするのは今ではない。総務に移動して仕事を始めると 「結愛さんの誕生日だから今日のお弁当は豪華なんだよ」 と前田さんが言う。 「いつものワンコインの倍、1000円弁当を誰かの誕生日にはここで食べているんだ。誕生日の人の分は他の皆が出すルール」 じゃあ、今日は1000円と200円を皆さんが出してくれるということか。 「ありがとうございます。前田さんたちの誕生日には私も仲間に入れてくださいね」 それ以上のプレゼントのやり取りはしなくても、皆が一緒にいつもより豪華なお弁当を食べてくれるのはすごく温かな雰囲気だと思う。 「結愛さん、前の会社の源泉徴収票はもらってる?」 「はい、先日受け取りました」 「うちで年末調整をするときに必要だから持って来て」 伊達さんに言われて 「私…3社目というか…公務員だったんですけど、今年になって二度転職したんです」 手続きがわからないから聞いてみないと…何も考えてなかった。 「年内に2回以上の転職をして複数の会社から給与支払いを受けているケースだね。転職先で年末調整を受ける場合には、全ての会社の源泉徴収票を提出すれば大丈夫。2枚とも持っておいで」 「わかりました」 市役所では税務とか全く無縁の部署にいたのでよく知らないことだ。誕生日だ、プロポーズだと浮かれるのもいいけれど、自分の知らないことが多いのだと、この部屋では気づかされる毎日ですごく集中出来る空間だ。
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