最低で最高な誕生日

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 リビングのローテーブルの上に広げられた、ピンク色のうさぎのキャラクターが賑やかな可愛らしいノート。娘の奈緒は、そこに女の子らしい丸みを帯びた文字を書き連ねている。そのノートは紀子の古い記憶を鮮やかに呼び起こした。それは遠い昔の忘れられない一日の記憶だ。 「ええっとぉ、リナちゃんとモエちゃんは絶対でしょ。それから、ヒマリちゃんに、ユイちゃん!あと、シンくんと、ユウキくんと、アキラくん!あとねぇ……」  友だちの名前を一人一人挙げながら、ノートに書く娘の奈緒の姿に、紀子は何十年も前の自分自身を重ねていた。 「奈緒はお友だちがたくさんいるのね」 「そうだよ! だから大変、どうしよう? この部屋にみんな入るかな?」 「どうかしら、少し狭いかもね」  指折り数えるのに十本で足りず、奈緒はまた指を開いていっている。豪邸に住んでいる訳でもないのだから、いくら小学四年生の子どもといえ、それだけ集まれば所狭しとなるのは目に見えている。 「えぇ……でも、他にももっと呼びたいのにぃ」  十歳のお誕生日会に友だちをたくさん呼びたいという奈緒の気持ちは、紀子にも良く分かる。娘が欲張りなことを言うのは、もしかしたら自分に似たせいかもしれない。 「そうね、たくさんお友だちが来てくれたら、それは嬉しいでしょうけど。でもね奈緒、本当に仲の良い子だけにお祝いしてもらうのも、いいと思うわよ?」 「えー、そうかなぁ?だって、たくさん来てくれた方が、プレゼントもいっぱいもらえるから、絶対そっちの方がいいよ!」 「奈緒はプレゼントさえ貰えればいいの? 確かにたくさんもらえたら嬉しいけどね。あのね、ママも昔、お誕生日会をしたことがあってね、それは最高の誕生日会だったの」    何十年も前のことなのに、思い出すと未だに胸がギュッとなる。紀子は蓋をしていた思い出を開いた。
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