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第12話【潜入】
秋田原子力発電所周辺には早くもマスコミ各社の中継車が集まっていた。地元の警察や秋田県警らは既に発電所の周りを固め、立入禁止として警戒にあたっていた。
少し離れた場所からその様子を見ていたのはついさっき到着したユナイテッドの幹部で田所の部下、下川と雷電だった。レンタカーの中から外の様子を見ている。ここまでの道中、車内に備えられているテレビで警視庁の記者会見を見て来た。会見の内容では敢えて五体のアンドロイド犬の存在は伏せられており、国外からの何者かが原子力発電所に侵入し、職員らを人質に立て籠もった、とだけ発表された。
「記者会見をしたせいか、随分集まっているな……」
「フン、たかがテロリストに占拠されただけで大騒ぎとはな、日本人もだらしねえもんだぜ」
「原子力発電所だからな。日本人にとってはトラウマなのさ、広島、長崎の原爆、そしてフクシマ原発事故……」
下川の言葉に鼻で笑った雷電が言う。
「それこそ時代錯誤だ、いつの話しを引きづってやがるんだよ。まあ良いさ、とにかく中にいる旧ロシアの連中とやらに挨拶でもしとこうぜ」
「待て、雷電。この厳戒態勢じゃ俺たちが中に入るのは無理だ」
「いや、下川、あんたはここに残れ。心配いらん、夜まで待ってオレが侵入する」
「ばかいえ、まだ相手側に共闘する意思があるかどうかわからんのだ! 仮に相手側にその意思があったとしても、先に行動を起こした奴らに実権を握られるんだぞ、アンドロイドのおまえだけが突然飛び込んで行ったら何を思うかわからんぞ。敵対行為と見なされる可能性も拭えん」
「上等だ、そうなればこっちが主導権を奪うまでよ」
雷電は強気だった。
陽が落ちて辺りが暗くなったが、二十四時間厳戒態勢を取る警察側とマスコミ側が用意した非常用照明により閉鎖された各侵入口は煌々と明るさを保っていた。
下川の心配をよそに雷電が動き出そうとした。
「ここで指をくわえて待っていても埒があかねえ、オレは行くぜ。ドアを開けてくれ」
「待て、雷電。むやみに飛び込んで行ってもこの厳戒態勢だ、騒がれるだけだぞ! それより考えてみろ、奴らは人質を取っているんだ。このまま食料も無い状態でいられるわけがない。どこかで食料の補充を要求する筈だ」と、下川は荷物が入ったバッグの中から小型のラジオのような物を取り出した。コンパクトで軽量化された無線機だ。
「これなら潜入したオマエとも連絡が取れる」
「……なるほど。よし、いずれにせよそのタイミングでオレが飛び込む。下川、あんたはここでオレからの無線を待て」
雷電はそう言い、下川が車のドアを開けた。「いいか雷電、騒ぎになるような無茶な事はするな、慎重にな」
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