第4話 【反乱】

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第4話 【反乱】

 民生党本部は民間の警備会社に加え、警視庁本庁からも警官隊が厳戒態勢で警備にあたっていた。そこへ美咲たちテロ特殊捜査課も加わることになった。 「なんでまた俺たちが政治家の警護なんかにあたらなきゃならねえんだ。こんなのは本庁の仕事だろ」  不機嫌なコルトはさっきから納得出来ない様子で愚痴を言っている。滝光が宥めるように言った。 「上からの御達しだ、仕方ないさ」 「こんなことしてる暇があったら、サッサとホシを挙げる方が先だろうが! 復帰早々ついてねえ話だ」  美咲、滝光、コルトが本部内に入ると本庁の警官たちが怪訝な顔で美咲たちを迎えた。コルトはそんな警官隊たちの視線を睨み返した。建物入口では金属探知機が用意され、民間の警備会社から派遣された警備用ロボットたちが手荷物検査も実施している。それらを監視しているかのような警官隊。 「公安の特捜さんがまた何の用ですか?」  入口でスーツ姿の男が近寄って来た。雰囲気から直ぐに本庁の刑事だとわかる。 「民生党本部の警護を依頼されて来ました」  滝光が答えると刑事は苦笑いをしながら口を開いた。 「ご冗談でしょ? ここは民間の警備会社と我々本庁からの人間で事足りてますよ、特捜さんが警護?そんな暇があるなら本腰入れてやるべき事が他にあるのでは?」 「フン、奇遇だな、オレもあんたと同意見だね」  コルトの言葉に刑事はムッとした表情を見せた。 「これは特捜の皆さん。わざわざご苦労さまです」  現れたのは梶山の第一秘書、木内という男だった。刑事は怪訝な表情を浮かべて木内に向き直った。 「梶山代表の秘書をしています、木内です」  木内は名刺を差し出して来た。滝光が木内に深々と頭を下げながら名刺を受け取った。 「木内さん、特捜の人間が警護に加わるなんて聞いていませんよ」 「すいません、これは梶山からの強い要望でして。勘違いしないで下さい、刑事さん。決して貴方たちを信用していないわけではありません」 「そうですか、まあ、ご自由になさって下さい」 刑事は不愉快そうにそう言い残してその場を立ち去った。 「気になさらないで下さい、本庁の刑事さんたちも悪気があったわけではないでしょうから。ああ、これが噂の特殊捜査課最強の秘密兵器ですか? 先日の副代表の暗殺を阻止した件は聞いてます。なんとお礼を言って良いやら」  木内のセリフにコルトが反応し、一瞬怪訝そうな表情を見せた。 「梶山がお待ちしてます、ご案内しますのでこちらへ」  エレベーターに乗り込むとコルトが脳内通信で捜査課のオペレーター室に問いかけた。 「冬馬、この男の経歴を調べてくれ」  通信を受けた志垣はモニター越しに映る木内のプロフィールを照会し始めた。 「民生党梶山代表の第一秘書、木内達也、年齢四八歳……この人がどうかしたのか、コルト?」 「なんか匂うぜ、この男……」  エレベーターを降りると廊下だけでも四、五人の警官や警備用ロボットがそれぞれのポジションに配置されていた。代表室のドアの両側には二人のSPが立っている。  木内の姿を見ると二人のSPは無言でドアから一歩離れた。ノックをすると梶山代表の声がした。 「公安局特捜課の方たちをお連れしました」 「どうぞ、お入り下さい」  ソファーを挟んだ奥の机に座っていた割腹の良い男が民生党代表の梶山だった。 「公安局テロ特殊捜査課の川本と滝光です、こっちがコルト」 「おお、これはこれは公安さん、御足労願いましたな。まあどうぞ、お座り下さい」  美咲は軽く会釈をし、滝光は例によって深々と頭を下げてソファーに腰を下ろした。 「今回はウチの村田が命拾いしました。私の方からも公安さんには改めて御礼申し上げます」 「容態はいかがですか?」 「まだ入院中ですが、幸い傷も大した事は無く、まあ、近日中にも退院出来ると聞いています。そっちにいるのが噂のアンドロイド犬ですか? こりゃあ頼もしい。見ての通り、些かやり過ぎなくらいの厳戒態勢でね。私としてはなるべく最小限の警備態勢をと提案したところ、ウチの木内が公安さんを推薦して来たんですよ」  梶山の言葉に木内が得意そうな表情を浮かべ口を開く。 「ここだけの話し、少なくともあなたたちなら本庁の警護の十人分の力を発揮してくれると思いましてね。その分、私たちも安心して動くことが出来るので……。梶山代表の身辺警護は基本的に本庁のSPが行います。あなた方はこの本部内の警備を担当して頂きたいのです。他の党議員も大勢出入りしますので」 ※※※※※※※※※※※※※※※※※ 「偶然ですか? これ」  オペレーション室のモニターで資料を見ていた志垣冬馬は回転椅子を回して黒川に向き直った。 「コルトが送って来た民生党梶山代表の第一秘書木内と白井光三郎、白井財団との繋がりか……。偶然にしてはまた妙な話しだな」 「はい、近年、アンドロイド製作にかけては世界トップ五のシェアを誇る企業、白井エレクトロニクス。大元の白井財団含め白井光三郎会長が束ねる白井グループ経営下にあります」 「その白井グループの傘下にある子会社のひとつの経営者に木内の名前か……マスコミが飛びつきそうなネタだな。問題は木内秘書と白井財団がどこまで深く繋がっているかだ。まあ、少なからず政治家と大企業が繋がっているのは珍しくはないが、アンドロイドを製作している企業とテロの標的となった政党の代表秘書の関係は素通りするわけにはいかんな。とりあえずこの件は美咲たちに報告してくれ。俺とビショップはその子会社をあたる。場合によっては木内秘書から事情を聞くことも視野に於いて行動だ」  美咲たちの控室として用意された民生党本部内の会議室。 「臭いとは思ったがやはりな、そういうことかよ」  志垣から送られて来た電子資料を目からプロジェクター機能で壁面に投映するコルトは吐き捨てるように呟いた。 「滝くん、梶山代表は?」  資料を見た美咲は無線で滝光へ呼びかけた。一階ロビーにいた滝光はSPに囲われ正面玄関に横づけされた車に乗り込もうとしている梶山を見送ろうとしているところだった。 「これから国会へ向かうみたいですけど……」 「木内秘書は?」 「さあ、別の秘書は一緒だけど、木内秘書の姿はありません」 「木内秘書の所在を確認して。私もすぐ行くわ!」 「了解です」  滝光は慌てて梶山とSPのところに走り出した。美咲とコルトも急いで部屋を出た。 「とりあえずちょっと待って下さい!」  滝光は必死に梶山たちの移動を留めに入っていた。 「どうかしたのかね?」  梶山が尋ねた。SP二人が怪訝な表情をして見せた。 「うちの川本が来て説明しますが、木内秘書は今どこに?」 「木内は国会で合流予定です。今日から通常国会が始まりますので遅れるわけにはいきません」  第二秘書の女性がハッキリと答えた。そこへ美咲がやって来た。 「木内秘書に関してお聞きしたいことがあります。ご説明しますので一旦部屋へお戻り下さい」  しかし、SP二人は食い下がらなかった。 「木内秘書に何の用があるのか知らんがそれは後にしてもらいましょう。我々には何の情報も入っていないし、君たち公安特捜課には何の権限もない」  そのSPが突然腰から銃を抜き美咲と滝光に銃口を向けた。美咲と滝光も反射的に腰だめから銃を抜いた。その光景を見た梶山と第ニ秘書の女性は驚いた。  もう一人のSPは慌てている梶山に銃口を突きつけた。 「おとなしく車に乗ってもらおうか、梶山さん」 「な、何をするんですか?」  SPの意外な行動に驚いた第ニ秘書が叫んだ。梶山も面食らった表情でSPに突きつけられた銃口の先から目が離せなかった。 「これは、ど、どういうことだね?」 「フン、こういうことだよ」  銃口を突きつけながらSPの男は後部座席に無理矢理梶山だけを押し込んだ。第ニ秘書の女性はSPを止めようと男の肩を掴んだが、軽く突き飛ばされてしまった。 「あなたたち、何をしているかわかっているの?」 「それをこの場で我々の口から説明するのは難しいことだ」  そう言いながら美咲と滝光に銃口を向けていたSPは後退しながら乗り込むと車は急発進した。  ロータリーを走りながら美咲と滝光はタイヤに狙いを定め銃を連射する。  車はロータリーから通りへ出ようとしたが、待っていたかの様に突然前方にコルトが立ち塞がった。運転手は慌てて急ブレーキを踏んだ。運転手はギアを入れ替えバックする。助手席の男は窓を開けるとコルトに向けて銃を乱射した。コルトはジャンプ一線、銃を撃つ男の左腕に噛みついた。 「グワーッ!」  あまりの痛みに男は絶叫しながら腕から銃を落とした。コルトは男の腕から離れると素早く着地し、次の瞬間にはボンネットに飛び乗る。防弾を施したフロントガラスを右前脚だけで粉砕した。運転手は再び急ブレーキを踏んだ。 「なめるなよ、残念だが頑張ったところでこの敷地からは出れねえぞ」  コルトが言うまでもなく、運転手の男は既にハンドルから両手を離し降参の意思表示をした。美咲と滝光は後部座席を左右から挟む形を取り、滝光が梶山の座った座席のドアを開き、梶山の腕を取ると素早く外へ連れ出し保護をした。後部座席に乗っていたSPの男は即座にまず運転手の後頭部を撃ち、助手席で腕を抑えて唸っている男の後頭部も撃ち抜いた。 「しまった!」  コルトはフロントガラスから飛び込み、美咲は急いでドアを開けたが、男は一瞬早く自分のこめかみを自ら撃った。車内は血飛沫と脳髄が飛び散る陰惨な光景となった。滝光は思わず目を背けたが、背後で保護をした梶山は腰を抜かして地面にヘタりこんでいた。美咲もさすがに動揺を隠せなかったが、それでも冷静さを保てたのは返り血を浴びても平然としているコルトがいたからだった。
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