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第19話【バイラス】
「彼らは人質ではなく、あくまで主役となるのはこの建物だ。日本政府は優先順位として人道的安全を確保することは確実、彼らの幽閉は一時的なものだ。間もなく解放する」
バイラスが雷電を見ながら言う。
こいつら、入念に調べ上げてやがるな……、雷電はそう思った。
「ところで雷電、君は単独でここまで来たわけではあるまい?」
バイラスの質問に一瞬躊躇した雷電。だが、上の連中はこのバイラスら旧ロシアの連中とどのみち共闘する腹づもりだし、下川も状況次第ではこいつら優先で事を進めるような話しをしていた。もはや隠すことはあるまい、と。
「ん、ああ。建物の外側に人間の仲間が一人いる」
「ちょうど良い、そのお仲間にひとつ用を頼みたいのだ」
「……用?」
「ここから直ぐ近くにある海外沿いに我々の仲間の部隊が明け方に到着する予定だ、彼らを出迎えてここまで案内して欲しい。お互いに目的は合致してるし、人間同士ならコミュニケーションもすんなり行くだろう」
「……なるほど、いよいよ人間共のお出ましって事か。ここまでのお膳立てがあんたらの役目で任務完了となるわけだ」
「いや、そうではない。あくまでも人間たちはこの作戦のサポート役に過ぎないのだ。だいたい人間たちが作り出したのがこの原子力発電所という悪魔の産物だ、どれだけ危険な代物かは彼らが一番わかっている。自分らの手を汚す行為などするわけがない。雷電、君も人間との付き合いが長いならそこは既に周知している筈だ、彼らの特性を」
雷電は言葉が出なかった。仲間から大佐と呼ばれていたこのバイラス……。全てを悟っていやがる、と。
「それにだ」
バイラスは続ける。
「そろそろ東京からやって来るだろう、君とも因縁の深い奴らが」
コルトとビショップか……。
「上にいた小僧もそうだが公安の二体を甘く見ない方が良い。奴らには何度も苦渋を味わされたオレが言うんだ、一筋縄じゃ行かんぞ」
「それは百も承知しているよ」
雷電の言葉にバイラスは不気味な笑みを浮かべた。バイラスは明らかにあの二体が来るのを待っている、雷電はそう感じた。
第四章 異国からの刺客 完
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