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1. 十八歳 笠鷺 翔守
☆
教室の窓を殴りつけるように、横なぐりの雨が音を鳴らしていた。
「降ってきたねえ」
曽我部 沙織は教卓の上に雑に腰かけ、三原色が縞に入ったスマートフォンを見ながら、態度よりも雑にそう零している。
「降ってきたなあ。……これじゃ無理だなあ」
つられるように、語尾を放り出して応える。窓際の自席で頬杖を突きながら、俺は窓の外を見るフリをした。画面の向こうにいるメッセージの相手の返信に一喜一憂している曽我部を、視界の際で見つめる。
いつも学校ではおとなしい曽我部が今教室でこんなに明るい表情を見せるのは、幼馴染みの俺しかここにおらず、加えてもう一人の幼馴染みがスマートフォンの先にいるから。
「笠鷺くん、今日は練習したかったよねえ。……あ、既読になったあ」
零れ出る言葉も、後半の方が断然熱を帯びていた。弾む声とともに、曽我部が教卓から飛び降りる。少しだけ裾を短く穿いている制服のスカートが膨らみ、着地から僅か遅れて再び白い太腿を覆った。
「お、おう。次は決勝だからな」
曽我部が画面に夢中で俺の事なんて見ていないのは分かっていたけれど、意地を張るようにそう返す。当然のように反応は無かった。
俺は机に突っ伏して、首を窓の方に向けた。
あんなにも黒くて細くてゴボウみたいだった曽我部の脚が、高校生になった今はどうしてこの暗い曇天でも白く輝いているのか。
二人きりの教室。
選手権佐賀大会の決勝を二日後に控えた放課後。昼からの小雨が弱まるのを待っていたら、俺達だけ帰れなくなった。
他のサッカー部員は全員怪しい雲行きに見切りを付けて早々に下校していて、こうして教室に取り残されたのはキャプテンの俺とマネージャーの曽我部だけだった。
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