1. 十八歳  笠鷺 翔守

2/2
43人が本棚に入れています
本棚に追加
/28ページ
「アタルの学校、青森大会は明日が決勝だから、今日は軽い練習だったんだってさあ。さっすが。余裕だねえ」  アタルからの返信の要約を、曽我部は俺にそう伝える。嬉しそうに画面をこちらに向けながら、俺の席の前まで来てニコリと笑った。 「青森は……降ってないんだな」  突っ伏したままそう言って首だけ前を向くと、眼前のスマートフォンの向こうに曽我部のスカートの襞が見えた。俺の机の角が襞の凹に埋まっていて、俺は画面を見ずにバサっと再び顔を伏せる。 「遠いもん。天気も違うよねえ、九州と東北は。それに、あっちはもうすぐ雪も降るみたい。端と端みたいなもんだからねえ。ほら、アタルも "頑張る" って言ってるからさ。笠鷺くんも元気出してよお」  甘味を増した語尾は、俺に苦味も連れて来る。俺の頭をぐしゃぐしゃと撫でまわしてから、曽我部が目の前の席に窓の方を向いて腰かけた。俺も首だけ捻り、同じようにその方向を見る。  俺は、水たまりのできたグラウンドを。  曽我部は、それよりももっとずっと先の東の空を。 「アタルは、勝つよね明日。約束だもんね」 「……ああ。きっと」  ラストチャンス。最後なんだ。  でも曽我部、決勝戦は二日後だぞ、と心の中だけで言った。  こんなに近くにいるのに、曽我部にとって一番大事なことはアタルなんだと、痛いほど伝わっていた。    ☆
/28ページ

最初のコメントを投稿しよう!