なにもかもが

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なにもかもが

 翌朝、目が覚めて顔を洗い、朝食を食べて大学に向かった。  真理子がいたので 「おはよう。」  と声をかけると何か知らない人を見るような、寧ろ嫌なものを見るような顔をして無言で通り過ぎた。 『俺、昨夜なんかしたっけ?』  考えながら授業の前に大学のトイレに入ったが、いつもは挨拶を交わす同じクラスの友人も挨拶をしても真理子と同じような反応だった。  俺はちょっと不安になって鏡を見てみた。  そして腰が抜けるくらい驚いた。  髪がない。それもつるっぱげならまだしも、まばらに生えていて落ち武者の様だ。不潔感満載だ。  いつもセットしなくてもサラサラ髪でほったらかしで大丈夫だったので今朝もそのまま鏡も見ずに出てきたので気づかなかった。  身長もない。鏡を見るのにも苦労するほど身長が低くなっていた。そして、身長が縮んだ分横に増えている。重さのバランスが変わっていなかったし、ずっとスマホを見て歩いていたので、風景がいつもと違う事には気付かなかった。自分が縮んでいる事に今気づいた。  何が起きたかわからないが、これでは周囲が俺だと気付いていないというのも納得がいく。当然、この容姿ではアルバイト先でも疑われてしまう。  今日入っている家庭教師のアルバイトも休まなければいけない。  涼は急いでバイト先に電話をかけたが、 「どちら様ですか?うちでは家庭教師なんて頼んでいませんよ?」  と、取り付くしまもない。  アルバイトが出来なければいつも通りにはお金は使えない。でも今日は運よく仕送りが来る日だ。銀行に行ってみるといつもより随分仕送りの額が少ない。実家に何かあったかの心配で電話をした。 「仕送り少なかったけど、何かあったの?」 「何言ってるの?いつもと同じでしょう?あなた私立しか受からなかったんだからちゃんとアルバイトしてよね。学費も下宿代も自分で稼ぐって言っていたじゃないの。」  えぇ?学校まで国立じゃなくなっている。じゃ、俺は今自分の通う大学じゃない所に来ているってこと?俺の大学はどこ?  急いで学生証を確認すると近くではあるが名前も知らない私立の大学だった。そしてその顔写真を見てまた驚いた。さっき、鏡を見たときは髪とスタイルに驚いて顔まではよく見なかった。 「誰?これ?」  つぶれたような団子鼻に女の子であれば可愛いかもしれない大きな八重歯。  瞼に隠れそうな小さな目。垂れた頬の肉。  これは困った。  昨日まで持っていたものを何もかも失くしてしまったのだ。  仕方なく、学生証にある大学に行って授業を受けたが、今まで苦労したことの無い勉強も全く教師の言っていることが頭に入ってこない。  勉強の能力まで失くしてしまったのか。  もう、次の時間からは受ける気もしなくてそのまま自分のアパートに帰った。  すると、部屋の中に身長の小さい自分の膝丈くらいのガリガリの小さいおじいさんがいた。裸で腰のあたりに汚い布を巻きつけている。折れそうな細い杖をもっている。 「えっと、どちら様?」 「わしか?わしは貧乏神だ。」    
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