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一日限りの
貧乏神は昨日コンビニで買ったパンに偶然くっついていたらしい。
「元に戻してくれよ。金だけならともかく学校や容姿や学力までなくなるってなんだよ。聞いたことないよ。」
「いや~、あまりにも何でも持っているからきっとありがたみが分からないんだろうと思ってな。」
「どうせだから全部ないことにしてやろうと思ったんだ。」
「そもそも、今のお前のような姿の人だって沢山いるんだぞ。」
「これまで、そういう人の事を少しばかにしていなかったか?」
「馬鹿に何てしたことはないけど、こういう容姿の人の事を気にしたことはなかった。」
「そういう所だ。お前を見ているだけでうらやましいと思う人間はたくさんいるんだ。もう少し、周囲を見て、自分の賢さを勉強と金稼ぎと彼女だけに使わずに、もっと、周囲の役に立つように使ったらどうだ。」
「考えてみるよ。何ができるかわからないけど。」
「難しく考えることはないさ。今日お前が驚いたような容姿の者に気軽に話しかけるとかするだけでお前のツンツンして見える態度も柔らかく見えるかもしれないぞ。」
涼はあまりにも何でも持っていたので、持っていない人との関りがあまりなく、周囲からは少しお高くとまった奴として見られていたのだった。
そして、確かにそんな気配には気付きすらしないで過ごしていた。
持っていることに感謝をすることで、誰とでも平等に付き合おうと思い、貧乏神にお礼を言おうとしたが、貧乏神はもういなくなっていた。
やはり、あまりにも持ちすぎている男の部屋には居づらかったと見える。
ただ、涼にとっては、これからの人生を生きていくうえで貴重な、特別な一日となった。
貧乏神がいないと確認した後、鏡を見ると昨日までの自分に戻っていた。
今からなら家庭教師のアルバイトも間に合う。
急いで支度をしてアルバイト先に向かった。いつも出来が悪い、と内心腹を立てていた中学生の男子学生にも腹を立てることもなく本人がどこが分からないのだろうと、本人の気持ちになって考えて教えることができた。
翌日からも、これまで話をしたことの無かったクラスメイトに話しかけたりと、人間関係を広げた。彼女の真理子は容姿の悪い男子と話す涼とは付き合いたくなかった様子で彼女の方からさっさと別の彼を作って別れた。
涼は、あの別人になった特別な一日のおかげで自分の凝り固まった心がほぐれ、これまでより人間関係が広がったことに心から感謝した。
大切なことを教え、去っていった貧乏神にも感謝している。貧乏神は時々様子を見に来ているらしい(時々お菓子が一つとか無くなっているので)貧乏神の為にいつも見えるところにお菓子を置いて行くようにした。
良いことをもたらすという点でお菓子が一つなくなったりするので、もしかしたら座敷童では?とも思ったが、いつもいる様子ではないし、一度、綺麗な布を腰に巻けるようにおいていたらそれもなくなっていたので、やっぱり貧乏神なのだろうと涼は思っている。
【了】
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