第一話 出発準備

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第一話 出発準備

キリクさんはわかったとだけ言ってくれた。 俺達が動くことで何かが変わるわけではない、もう世界が動き出している。 うどん屋を惜しむ声があるが、そこは、小麦が手に入らないということで閉めると話してあるのだ。 ここを出て行く、十日前、それは最後となった。 「ごちそうさん、またどこかで」 「はい、ありがとうございました」 うどん屋しむら、閉店。 そして、一週間前、リリアたちがここを出て行く。 「忘れ物ない?」 「はい」 「悪いが頼みます」 「任せとけ、じゃあなちびども、ミーハイで待ってるぞ」 二人は大きな荷物を持って乗合馬車で旅立った。 さて、俺たちも着々と荷物をまとめていた。 「いいですね、今日はこれだけですからね」 「よし、いいぞ」 「それじゃあ、行く、収納!」 ギッ、ギッズズズー、しゅぽん! 「フー」 「よし来い!」 俺は後ろに倒れ、佐々木君に抱かれ、そのまま布団にイン。 「きょうはうごいちゃあめ!」 「はい、ゆうことを聞きます」 いいこ、いいこ。とモエになでられた。 スローライフなんて、夢のまた夢かもな。 日本人、働き過ぎというけど、性分なんだろうね。俺は目をつむった、しばしの休息はすっと眠りについた。 「ねえちゃん、できたよ」 「おーいいわね、さすがうどん職人ね」 「へへへ」 「俺ももう少しだな」 「あたちは、あたちは?」 俺達は師匠のおかげでいろんなことを覚えた。今日は、大人たちが忙しいから、師匠に聞いたひっつみを作っている。うどんよりも具が多くて俺は好きだな。 「もちもち、おいしい」 「モエ、落ち着いて食え」 「リル、気にしないで食べちゃって」 「すみません」 大人達は笑っている。 師匠は体の調子が良くなると佐々木と出掛けた。キリクさんのお爺さんの家に行ったんだ。 「ねえ、こんなにお肉があるのに、腐らないのはどうしてかな?」 「まずは、あの外の不思議な箱のせい」 「ああ、氷を作る箱だろ?寒いときしか使えないって師匠は言っていた」 「そう、氷があることで、肉までも凍らせた、だからいい肉がいつまでも食える」 「もう一つは、あいつの頭だな」 「師匠の頭ですか?」 「たぶんあいつの頭の中にはまだ俺たちが知らないことがもっと詰まってる」 「まあな、材料があればなーっていつも言ってるもんな」 「材料だけだと思うか?」 どういうこと? 「まずはこれ」 「お酒?」 「そうだ、これをあいつは探し出したと言っていた、だがどこにもこの酒は売っていない」 「え?師匠が作ったの?」 「たぶんな、だがあいつは俺が作ったなんて偉そうに言わないだろ?」 「うん」 「そうだな?俺たちは褒めても師匠はそんなことしない」 あいつは向こうの世界でも相当のやり手だったはずだ。 それはあわかる、だって佐々木ができないことが多すぎる。 年もあるし育った環境もあるから一概には言えませんよ。と、ノスコール。 「まあそうだが、俺が王様なら、佐々木のほうがいらないな」 とザクさんだ。 「それです、おかしいでしょ?なんでそうなったんでしょうね?」 「あいつらが言っていた金のお面が気になるな?」 「まさか、王が魔物になってしまったからお面で隠しているとか?」 「たぶんな?」 「ただいま、いいにおい」 「うまそうだな」 「おかえりなさい」 「師匠大丈夫?」 「ああ、平気だよ、ザクさん、ノスコールさん、明日、馬車の荷台の手配したものが来るのでお願いします」 「わかりました」 「おう」 師匠たちは、これで最後だと言って、鞄いっぱいの栗なんかを見せてくれた、これは持っていくもの。 「美味しそう、いただきます」 「いただきます、ん、うまくできてる、漬物はどうかな?んーいいね」 「ねえ師匠」 「なんだ?モエ?」 「お酒は師匠が作ったの?」 「こら!」 「モエちゃん!」 「ばれたか、わかっちゃいました?」 「はー、わからないと思ってたのになー」 「なんだ、佐々木が作ったのか?」 「手伝いました、俺じゃあ無理ですよ」 やっぱり、でもなんで隠すんだ? 「酒は取り締まりが厳しいでしょ、税金もとられるんだ、でも家で作れば見逃してもらえる」 「売らなきゃいいだけですからね」 俺も飲む、志村さんは? 「俺も、でも今は内緒、飲みきって新しいのは向こうで作りましょう」 「でも酒なんてすぐにできないだろ?」 「もとはこっちの酒だよ、ちょっと手を加えただけさ」 そうなのか? そうなんだよ。 それは、こっちで買い付けたもの、まだ樽ひとつ分あるがそのままじゃ飲めないのだそうだ。
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