第二話 物語

1/3
前へ
/86ページ
次へ

第二話 物語

ミーハイへと向かう馬車の中で俺たちは、キリクさんのお父さんから物語を聞いていた。 子供たちが集まる馬車はにぎやかで、俺たちは景色を見ながら聞いていたんだ。 昔々、ある島に、仲のいい若い夫婦が住んでいました。 二人は働き者で、近所でも評判がよく、朝から晩まで、麦を育てていたのです。 そんな夏のある日、昼から天気は急変し、雷が鳴ったと思ったら、ザーザーの雨、風も吹いて来て、嵐となりました。 夜、そんな中、男が一人、雨宿りをさせてほしいと来たのです。夫婦は悩みました、二人だけなら泊めたいのですが、今は赤ん坊が生まれたばかり、ゆっくり休むこともできないでしょうという二人に、男は納屋で十分ですと言うので、納屋を貸すことにしました。 夫婦は、寒いだろうからと、着替えや毛布を貸し、男をもてなすことはできないけれどできるだけのことをしてあげました。 朝、うって変わって晴天になり、男は二人にお礼を言い、泊めてもらったお礼にあるものを差し出したのです。 それは綺麗な青い色の石でした。 男は、これは水が出る石だと言い、困った時に叩けば水はコンコンと湧き出ると言って、彼は出て行ったのでした。 それから一年後の夏。 物凄い日照りが続き、彼らもまた、毎日水汲みに遠い川まで汲みに行っていたのですが、とうとうその川も干上がってしまったのです。 小麦や作物は毎年決まった量、年貢として王様の所へ納めなくてはいけません。それが出来ないとこは借金をしてお金で払わなければなりませんでした。 お金も払えなくなると、最後は、奴隷商人へ売られてまでもお金を納めることになっていたのです。 人々はそんな事にならないように家族を大事にして一生懸命働いているのです。 村の人たちは困り果て、王様に相談に行きました。王様の住む王宮には、枯れることのない泉があると聞いていました。人々は少しでいいので分けてほしいと頼むのですが、王様はこの泉も枯れたらそれこそ大変だと、人々を追い返えしてしまうのです。 困った夫婦は、あの石を使ってみることにしたのです。 石から水が出るなんて半信半疑だった二人。石は二人の前でコンコンと水を出し、驚きました。 夫婦は、すぐに近所の人たちに水を分け、遠くの人たちにも使えるように川にもその水を流してやったのです。 人々はその夫婦に感謝したたえました。 一方それに腹を立てたのは王様です。 たかが水がなかっただけで悪者にされたと王様は夫婦を恨むようになります。 王様は夫婦の所の水を使った者達にはいつもの倍の年貢を納めるように言いました。ですがその年は豊作となり、誰ひとり困ることはなかったのでした。 人々は子供たちにこう言い聞かせました。 困った人がいたら、その時に何が出来るのかを考え助けてあげるのですよと。 数年後、夫婦には二人目の子供が出来ます。 そして忘れたころ、また嵐がやってきました。 夫婦は、またあの男が訊ねてきたら、お礼を言おうと思っていました。 ですがその日訪れたのは、老婆でした。 家族は、彼女をもてなし、暖かい場所を彼女に提供したのです。 次の日、彼女は、お礼を言い、夫婦にこういいました。 息子さんは立派な魔導師に導かれ、あなた方のもとを去るでしょう。でも嘆いてはいけません、彼は立派になってあなた方を救います。 そしてもう一つ、娘は結婚しても、夫婦のそばに置きなさいと言われました、それは、兄が帰ってくる目印となるからと彼女は言ったのです。 数年後、兄が七歳になった年の寒い冬の事でした。 街に病がはやり、多くの人が寝込んでしまいました。 そんな時、夫婦の家を、知らない男が訊ねてきました。彼は、ここにきれいな水があるというのを聞きつけ、水を分けてほしいとやってきたのです。 夫婦は喜んで使ってくれと言いました。 彼は、夫婦家族に、水を大事にする様に話します。 彼らは綺麗な水があることで病になることはなかったからです。 病を治す人がいることを聞きつけ、多くの人々が男のもとを訪れました。 そして毎日水を汲みに来る彼に、息子は弟子になりたい事を告げるのです。 夫婦は、もしや彼が魔導師ではないかと尋ねます。 男はまだまだ未熟者ですと謙虚に答えます。 夫婦は、それでも多くの人を救った男に、息子を託します。 そしてその話はまたもや王様の耳に入ることになります。 丁度その時、王様の息子も病にかかっていました。周りの人たちは、すぐにでも男に見てもらうように王様に頼みます、ですが王様はそんな見ず知らずの物に大事な息子を見せる訳にはいかないと王様はお金を払い世界一の名医と言う人をわざわざ遠くから呼び寄せ見てもらったのです。 ですがその間にも息子はどんどん悪くなり、医者が来たときにはもう手が付けられない状態でした。 息子が亡くなると王様は魔導師を恨むようになり、病を広めたのは魔導師だと言いふらしたのでした。 ですが人々は知っています。 男は魔導師などということは一言も言っていません、知っているのはあの夫婦だけです。 そして無償で病を治してくれた男とそれを手伝っていたあの夫婦と息子。 彼らは、病を治したのは自分たちだとは言いふらしたりはしませんでした。 人々は子供にこう言い聞かせました。 おごり高ぶることなく、いつでも謙虚でいるんですよと。
/86ページ

最初のコメントを投稿しよう!

49人が本棚に入れています
本棚に追加