第二十話 迷宮島の名物

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すると脇から男の子が割り込んできた。 ひょいと手をかけ、登りあがった。中にいる女性に声をかける。 「姉ちゃん、みたらし、たっぷり」 「お兄ちゃん早い、私アンコ!」という子は伸びあがって見えないようだ。 女性は、串の白いものを茶色い液体にドポンとつけ、入れ物にさし、男の子に渡した。もう一本には、黒いものをぬり、入れ物にさして俺の足元にいる女の子に渡したのだ。 男の子は受け取ると、串を出し、周りの液をぺろぺろうまそうだ。 女の子は、口いっぱいに頬張っている。 「すみません、それを一本ずつ持ち帰りで」 お金を出し、うけとり、子供たちが向かう外へと出てみた。 「はー、これはいい」 見事な庭、そして海、天気もいい。あちこちに座り、うまそうに食べながら話し込んでいる人たち。 ゴミはゴミ箱にと書かれている。 立ちあがり、おかれている箱に捨てる人たち、いいねー。 高台からその眺めをしばらく見ていた。 私も座り、貰ったものを見た、まだほのかに暖かい。 この入れ物は見たことが無いな? 木の皮のようだ。それを丸めているだけなのだが、液がにじんではいるがこぼれてこない、ああ、底に一枚別に入れてあるのか、へー。 まずはみたらし。 長さは中指から手首ほど、小さめの丸いものが三個、少しだけ茶色い焼き色がついている。 甘じょっぱいみつの様なとろりとした液体が白いものにからまっている。 んー、これは舐めたくなる、白いムチムチしたのもうまい。 もう一つ、アンコ、これは、豆か? 口に入れた、ほー、これもまたうまい、子供が買える鉄二枚なかなかやるなー。 そうださっきの紙。 二つ折りになっている、中をあけるとこう書かれていた。 魔導師の国から。 魔導師たちの国があるのか? この国と魔導師たちの住む国は似ているらしい。 一年を12に区切り、ひとつを一ヶ月として三十日と三十一日交互においた。又、一年を四つに区切り、季節を作った。 3,4,5月を春。6,7,8月を夏。9,10,11月を秋。12,1,2月を冬。 大市は。四月と十月。 農家の者たちの作業の合間に行われる。 「ああ、そうか、そういわれるとそうだな」 四月はあんこの入ったハットを食べ、これから来る熱い夏に向け、体を作る準備。十月は黄な粉のハットを食べ、農作物の収穫に感謝する。とともに、これからくる寒い季節に向けて、体調を崩さないように整える準備。 魔導師たちは先祖を敬い、その日、ハットを家の高いところに供え家族や親戚など、集まったみんなで半年の無事を亡くなって天に召された人たちへ報告。 そしてハットを分け、食べるそうだ。 病気や怪我をせず長生きできるようにと願いをこめて。 「ふーん」 中を見ると、結構買っていく人がいる。量もそれなりにある、だから高いのか納得。 ふと裏を見た。 「え?野菜?」 この紙は野菜でできています。 口に入れても害はありませんがお勧めしません。 「何だ、アハハ、すごいなー、俺でも作れるのかな?」 あんぐ。もぐもぐ、もうない、串にまだついているのであんこを拭い口に入れ歯でしごいた。うまかったー。ゴミを捨てた。 するとさっきのめがね男が一人の老人と出てきた。 「それは、それは、どうかお気をつけて、大市が終わりましたら、必ず参ります」 「すまぬな、志村殿には何から何まで」 「そんなことは、いいっこなしです、こちらこそ、感謝しております、これからもお願いします」 老人はめがね男の手をとって、感謝いたしますといって去っていった。 もしかして彼が・・・。 「いらっしゃい、毎度ありがとうございます」と俺たちが座っているほうを向いて笑顔で挨拶をしたんだ。 物語のとおりだ。 だからこんなにも繁盛しているんだな。と素直に思えた。 「うどん屋しむら、また来よう、次は、家族みんなと違うものを頼んでみるか?」 男は海へと続く、脇の階段を下りていくのでした。 こんな平和な日が来るなんてあの日想像できただろうか? これは二年前の話だ。 俺たちがこの島へ来て三年目、三度目の大市がやってきた。 岸壁から延びる山沿いに建つ色鮮やかな家々、この島は今、観光に来る人も出てきた。 そして俺たちの店も完成した、海が見える高台の一等地だ。 前、寝泊りにつかっていた場所、旧教会は、災害が起きた時の避難場所、それと何かをする時に使える集合場所となった。 建物は土魔法と、佐々木君の監督のもと、もっと頑丈な物にした。 まあ火山がある訳だからね、地震も諸諸の事も起きたんだけど、俺たちはそれを乗り越えてきた。 そしてここはテンドンにいた時借りた屋敷そっくりな物を作ってもらったんだ。
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