第二十一話 目玉の木

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第二十一話 目玉の木

そして今、あの洞窟の側では、クリンが半年の無事を洞穴の神様に感謝して、供物と花をあげに行っている。 子供たちと遊びたい彼女、だからこそ、にぎやかな時はどうぞ出てきて島の人と遊んでくださいって意味をもたせた。祭りをするんだ。 春と秋の二回。 なんでかって? 春分の日と秋分の日、それはこっちの世界にもあって、農業をする人はちゃんと心得ていた。 そしてその日、クリンはあの洞窟の側に行っても引き込まれなくなるんだ、だったらいっそその時に彼女に行ってもらって、HPの回復に努めてもらう。 そして、魔石の回復もしてくれるからね。用無しになった魔石を彼女に預けると、また使えるようになるんだよな、これは、もう神様だよ。 大市の時この島に来れば魔石が安い値段で買える。 そして使い物にならない魔石は買い取ってくれるんだ、なんて優しいのだろう? 「はい、はい、忙しいんだから、そこまでにしてくれよ、ギルド長」 「もう、わかってるわよー、あー、それはこっちね、魔石の買取は向こうでお願いねー」 ギルドも忙しそうだ。 祭りって何をするの? 大市と言って、朝早くから、あちこちで店が開く、それが三日間おこなわれる。 一日目は祭事。 教会関係者とクリン、子供たち数人が洞窟に入り、彼女が眠っていることで、力が発揮できるものもあるからね、いろんなことに感謝し、どうかぐっすり休んでくださいという日にするんだ。 二日目、子供たちと鬼ごっこをした原っぱ、あそこで踊りをする。 踊り? そうだな、適当に体を動かすと言った方がいいかな? 音楽はあるんだ、俺たちの世界よりはずっと古代。 太鼓をいっぱい作っている、子供たちにバチを持たせれば、赤ちゃんだって叩くんだもん。 それは、春と秋のたった一日だけ昼と夜の長さが同じになる。お昼。一番魔力が無くなる時を境に三日。クリンは中に入れる。 それが終わると、あの洞窟から目を覚ました子が起きてくる。 夕方から行われる祭りは神様に起きてくださいという意味がある。無礼講で、大人達には酒がふるまわれる。 食事と子供たちには縁日のような物も用意してある。 踊って騒ぎ、九時頃、そう、子供たちが疲れ、眠る頃お開きとなるんだ。 そして次の日は、最終日の夜七時ごろ、海岸のあの洲でちょっとした催しが始まる。それは後で。 今は昼時で一番忙しいのだ。 ただ、困ったことが起き始めた。 それはあいつらだ。 「また来てるな」 「こっちへ渡ろうと伺っているんだろうが、おかしいな」 何がだ? 魔王を食ったら終わりじゃないのか? いや、その島の精気を吸いつくすまでいるんだろ? じゃあ駄目だろう、この島は、あそこでつながっているんだ。 「でもよ、増えるのか?」 「王の数だけじゃねえんだよなー?」 んー、まずは報告してくる。 この間倒して間がないのに。 わからんぞまだ来るかもしれないしな。 ああ。 目玉の木は、対岸に出没するようになった、そして海を覗き込むように見ている。 目を合わせるなといってあるし、今から野焼きをする。 年二回のお祭りは、浄化のため、最終日に島に火をつけることになっているんだ。 でもその火は、回を重ねるごとに、煙が沈下するまで伸びているような気がしている。 夜、弓自慢が対岸に集まり、火のついた矢を放つ。 結構距離があるんだけど、冒険者たちはこの時のために鍛錬をしているから、数人が向こう岸に火をつけることができるんだ。火が付くと一斉に歓声が起きる。 矢には印がしてあって誰の矢かわかるようにしてある。 望遠鏡で覗き、向こう側に火をつけた者、届いた者には、賞金が出るんだ。 ここ二年はノスコールさんたち若い連中が頑張っている。 子供たちも、見よう見まねで弓を射るようになった。 そして。 「お父ちゃん」 「ほいきた、カズなんだ?」 ママちゃんがね、ワタはまだですかって。 「うわー、今行きます」 「パパ―」 「マイなんだ?」 「母様がお酒を入れ替えるって」 「ウオー。カズ、マイとワタをママちゃんの所へもっていってくれないか?」 「えー」 「えー」 「大市の間は忙しいの、手伝わないと、おこずかいなし」 「エ~」 「エ~」 「ほら、ほら、いった、いった」 この世界は一夫多妻、でも、ほとんどが、一夫一妻制で過ごす。それは夜の問題だ。 やりチンってわけじゃないけどそれなりの体力がいるってところだな。 でも俺は、こうなってしまった。 リリアとクリン、二人と結婚してしまった、男の子、和はリリア、女の子、麻衣はクリンとの間にできた子。 嬉しいけどさー、大変で。 そしてこいつも。 「サル―知りません?」 「こっちでは見なかったな」 「クリンのところかもしれんぞ、腹が重いって言っておったからな」 「いってみます」 「パパ」 と手を伸ばす子をひょいと担いで行っちゃった。女の子はサーヤ。サルーとせいやからとってつけたみたいだな。 そう、佐々木君とサル―の所は二人目の子供だ。 「ジル兄ちゃん!」 「兄ちゃん」 「オー、ワタどこへもっていくんだ?」 「ママのとこ」 「姉ちゃんか、よし、手伝ってやる、これもて」 「おはなー」 「いい匂い」 そして冒険者ギルドでは。 「では、どこかに隠れる場所でもあるのだろうか?」 「今晩は、火もついたから、出てくるのは、火が消えて数日してからになるんでしょうかね」 「わからんな、とにかく、警備は気を抜かないでくれ、こっちでも調べる」 「大市の時に」 「どうかしたのか?」 「大師教様実はダークツリーが対岸に現れたそうです」 だが今は野焼きをしているだろう? 焼けてくれればいいのですが…。 みんなが幸せに浸っていた、足元に脅威があることを忘れるように。
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