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「駄目だったあ」
その日の休み時間。千速ちゃんは、ぐったりと教室の机に突っ伏していた。
「成績アップのおまじない、効果ナーシ。漢字の小テストが壊滅したでござる」
「千速ちゃん、国語全然駄目だもんね。特に漢字苦手すぎでしょ。……おまじないも大事だけど、勉強しなよ」
「うっせ、記憶力がいい萌黄と一緒にすんなし!」
漢字の小テスト。やるよー、と先生が予告していたのだから、少しは勉強しておけばいいものを。おまじないに期待して遊んでばっかりいたのでは、そりゃうまい具合にクリアできる道理もないだろう。しかも突っ伏した状態で“次はうまくカンニングできる方法を模索するか”とかとんでもないことを言いだしているのだからどうしようもない。
「おまじないも、ちょっと飽きてきた感あるう」
机の下で足をバタバタさせながら千速ちゃんは言った。
「結構両立できないおまじない多いしさあ。一つ一つが手間なのもあるしさあ」
「そーね」
「それに、この間聞いた焼却炉のおまじないみたいに!呪詛と成績アップのおまじないがごっちゃになって、どっちが正しいのかわかんなくなっちゃってるやつあるじゃん?ああいうのは怖くて試せないしー」
「そーねー……」
千速ちゃんは、夢多き少女だった。楽して成績をアップさせたい、のみならず。将来は漫画家になりたいだとか、隣のクラスの二岡君とラブラブになりたいとか、かけっこで一番になりたいとか、クラスの大人しい女の子と仲良しになりたいとか。とにかく小さなことから大きなことまでたくさん願い事があり、おまじないによってそれが叶ったらいいなと夢想する少女であったのである。
小学校四年生の子供なら、まあそういう夢見がちなのも仕方ないことだろう。
だから私は彼女のために、とあるおまじないを知り合いから仕入れてきていたのだった。
「元気出しなよ。私がとっておきのおまじないを教えてあげる。室っちにね、面白いの聞いたから。その名も、“王様になりたいゲーム”」
「なにそれ?王様ゲームじゃなくて?」
「全然別物。おまじないなの」
室っちというのは。クラスでも、ホラーとかオカルトに詳しい女子のアダ名だった。本名、室田真乱。本人があまり自分の名前を気に入っていないようで(キラキラっぽいのが嫌なんだという)、苗字をもじったアダ名で呼んでいるのだった。
彼女から教えて貰った王様になりたいゲーム、とはこういうものだ。
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