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私は、何も分かっていなかった。
このおまじないの、最初の王様がわかっていないこと。そして、王様が一人とは限らないということ。王様になりたい、次の人の願いを叶えるリスクを負ってでも自分の願いを叶えたい人は後を絶たないということ。
同時に。おまじないの性質上、どんどん叶える・叶えられる願いのハードルが代替わりごとに上がっていくのが明白であること。
誰かが王様を引き継がないで残酷な死に方をしない限り、このゲームには終わりがないこと。
このおまじないを自分では実行せず、卒業と同時にすっかり忘れてしまった私はまったく理解していなかったのだ。
大学生になって久しぶりに、千速ちゃんと再会するまでは。
「萌黄ちゃん……どうしよう、あたし、あたしやっちゃった」
再会した彼女は相応に大人びた風貌になっていたものの、それ以上に痩せこけていて顔色が悪かった。カタカタと体を震わせながら、私にこう言ったのである。
「私、王様になりたいゲーム、まだ続けてたの。……王様になりたい、なりたい、ってずっと繰り返してて、今も王様になってるの。それで……それで。私の前の王様が、大学の大嫌いな先輩で……思わずあたし“死んでください”ってお願いしちゃって。そ、そしたら先輩、本当に飛び降りちゃって」
どうしよう、と彼女は頭を抱えたのだった。
「あたし、それ以上のお願いを叶えないといけないの!次の王様になりたい人が何人も現れたけどみんな“レイプされて殺されてください”とか“人を殺して死んでください”とか“拷問を自分の体で試してください”とかそんな怖いお願いばっかりで!こ、断り続けてるけどもう二年過ぎちゃう……!」
「ち、千速ちゃ……」
「お、お願い萌黄ちゃん!し、親友でしょ?い、一緒に……怖いお願い叶えなくてもいい方法考えて!お願い、お願いだからぁ!!」
人を死なせてしまった事を罪とは思わず、自分が酷い目に遭うことにばかり怯える彼女に。私は、もはや何も言うことができなかったのである。
彼女がとある工場の機械に下半身を巻き込まれて死んだと知ったのは、それから一カ月ほど後のことだった。
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