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その後
幸せだったと日記に綴った十日後に、娘は静かに息を引き取った。
最後まで手元から離さなかった日記を、最初は読むのを躊躇っていた。開こうとする度に『見ちゃだめ』と笑う娘の顔を思い出してしまうから。娘の言葉を無視するのが嫌で、笑顔を思い出すのが辛くて、そっと表紙に手を這わすだけしかできずにいた。
だけどお世話になった看護師の方に読んであげてほしいと言われたこともあり、ひと月ほど経ったころ、私と夫はノートを手に取り表紙をめくった。辛くてもやはり、娘の全てを知りたかった。
病気になって怖かったでしょう? 毎日病院にいて寂しくなかった? 少ししか行けなかったけれど、学校は楽しかった? こんな体に生まれてお父さんとお母さんのこと、恨んでない?
どんなことでもいいから、娘の感じていたことを知りたかった。
そうして読んだ日記には、娘の毎日が残されていた。私たちの前ではいつも笑っていたけれど、きっと本心では苦しんでいただろう、怖かっただろうとずっと心配だった。だけどそうではなかった。娘はどんなときだって毎日を楽しんで過ごしていた。
いい天気だった、ご飯が美味しかった。そんななんてことない毎日が、娘にとってはかけがえのない日々だった。同じ一日なんてひとつもない。娘は毎日を全力で生きていた。
そのことに気付き、私と夫は肩を寄せ合って泣いた。これまではあの子が生きたかもしれない未来の日々を惜しんで泣いたものだけれど、今は違う。あの子が生きた日々が嬉しくて誇らしくて泣いていた。あの子が生きていた日々こそ、私たちには特別な毎日だったのだ。
同じ日なんて決してない。だからこれからは一日一日を全力で大切にしよう。私たちは娘にそう誓った。
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