第一話 水揚げ

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第一話 水揚げ

オギャー、オギャー。 赤ん坊の声が聞こえる。 「誠也(せいや)早く起きなさい、遅刻するよ!」 おふくろの声? 俺は階段を下りていた。 懐かしい自宅の狭くて薄暗い階段。 目の前には懐かしい人。 オヤジ…? 「早く飯食え、宿題はしたのか?」 その声が妙に近くて。 「オヤジ!」 「セイヤ‼ク、苦しい!」 ペシ、ぺシと叩かれる腕の痛みに目が覚めた。 腕の中に見える茶髪に三角の耳がぴくぴくと動いている。 「う、ウワー、ごめんサル―大丈夫?」 げほっ、げほっと首を抑える妻の背中をさすってやった。 「もう、夢でも見てたのか?オヤジって行った後首絞めるなよ」 ごめん、ごめん。 夢を見ていたのだろうか?だがあれはどう考えてもあっちの世界、俺たちが巻き込まれた事故?その後は俺の憶えている記憶だろうけど…。 「よし、よし、びっくりしたよな」 泣いているのは二番目の子。 「ごめんなー、愛、機嫌直して―、べろべろバー」 こっちの世界に来て五年目、そして俺は二人の子供が出来た。 父親になった、たぶん、両親に見せたかった、それが夢に出た、それだけだ、そう思うようにした。 俺の大事な子供たち、そして俺が愛した人。 「どうかした?」 「ウウン、大好きだよ、サル―」 照れたのか、背中をバンバン叩かれてしまった。 フワ―、おはようございます。 おす、寝不足か? そう言ったのは、志村智司(しむらさとし)さん、俺と一緒に召喚された人だ。 まさかー、いっぱい寝たんですけどね。 夢を見た話をした。 「事故の時か?」 だんだんと思い出して来たことが浮かんでくる。上司が俺の名前を呼んでいたような気がしてという。 まあ、そんな事もあるさ。 緊張しているのだろうか?あすから、志村さんが隣の島へ出かけることになっている。 今回はちょっと長くなる。 三年前。 ダークツリーのために作った橋を渡ってきたのは、全部で四十六体。 その後、雷が起き、橋を渡って来るものは無くなった。 秋祭りも、今年の春祭りも橋を渡って来るものはなく、今はただ大きな橋だけが残っている。 陸橋の下に住んでいる人たちもいて、まあ賑やかではあるのだが。 海の流れが変わってしまうという事で、八百メートルほど、向こう岸との間を壊した。 もしも又現れた時は、魔石を撒き、海を渡り、島の南側から橋を上ってもらう。 予定だった。 冒険者たちが入ると、すぐにギルドが動き出し、乗合馬車ができた、そのため向こう岸にわたらなくてはならない。 もしもの事を考え、橋を作り直すことにした。海の流れが極力変わらないように洲の上に移動、もしもダークツリーが現れた時は、人の往来を中止できるように、仕掛けを作ったが、今のところその必要はなさそうで、今じゃ、船でこの島に来て、北へ向かう人の流れができてしまった。 火山へ行くほうもなぜか観光道路になっている。山道を登るより楽だし、火山のそばまで行くことができるというので店もでき、宿泊施設もできるほど大賑わいだ。 向こう岸にも人が住み始めた。 住んでいるのは、志村さんたちが見つけた入江。アルモア国のはずれ、円形の道路がある場所だ。もともと人が住める場所ではなかったようで、ライフラインからしはじめなければいけなかった。 今ここは、東の島モロア諸島との貿易のため船をつけるために綺麗にしたんだ。 一番に入ったのは陶器職人だ、この段差を使い登り窯を作って焼き物を作った。今じゃ俺たちの島に欠かせないものを数多く作っている。 荒野のような場所は、除草剤と野焼きのおかげで、雑草が生え始めた。数百年待たなくても畑が出来そうだ。 冒険者たちが島へ入り、今どんな状況か見て歩いている。北の島を挟む海峡までは大丈夫というが、キャプテンたち北から逃げてきた人たちは、ここ迷宮島からは動きたくないと言ってくれている。 農業が出来なければいけないからね、一番の問題は水。 ダークツリーの根がどこまではびこっているのか、除草剤と、人がいない所は街ごと燃やしている。 魔物も、さほど出ていないようで、何事もなければ住めると、人々は徐々に戻ってきている。 ギルド長達は人の流れができると一番に国へ戻り始めたが、そこまで行くためには、必ず一度この島へ来てから北上していく。 だからかな、ものすごい人が増えたんだ。 でもここの住人はこれ以上増えないようにしている、ほかの島からここへ来たいという人はアルモア国へ行くように促している最中だ。 四十六体のダークツリーは、王様だけではなさそうだという教会の結論に、北方の島は船で冒険者を運び出した。 何とか住めるようになっていればいいけど…。 彼等からの連絡は少なくても一か月待たないといけないだろう。
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