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妃奈(ひな)に聞いた
誰にも見られていないことを確認して、俺は図書室で貸出処理を自分で済ませた。『こころ』と『鼻・羅生門』を手にもって図書室を出ようとした時だ。
「あ、ごめん。」
「いやいや、俺こそ。」
出口でクラス一の才女、妃奈にぶつかりそうになった。彼女は不思議そうに俺の抱える本を見つめた。…しまった。アイデンティティの崩壊。
「これは、その…兄貴にたのまれて…。」
苦し紛れな嘘を吐く俺。明らかに動揺しているのが見え見えだ。妃奈にはきっとお見通しだろう。
「ふうん…そっか。」
ほら、納得してなさそうだ。
「夏野くんが読むんだったら面白いなって思ったんだけど。あ、別に読まなくても夏野くんは面白いんだけど…。」
ああ、似合わないって思われている。今「面白い」って言ったもの。
…面白い?
「え、どういうこと?」
「いや、ギャップの魅力っていうか…。意外なことにも興味があるってなんだか格好いいじゃない?それに、個人的には本の話ができる人がいると嬉しいなって。」
魅力…格好いい…そんな風に思われるのか。
「いつもみんなを盛り上げる夏野くんを私はうらやましいと思っていたけど、こういう所があると尚更だな。」
それだけ言って妃奈は図書室の書架の間に姿を消してしまった。やっぱり俺の嘘はばれているみたいだ。
でも、いっか。いつもと違う俺、格好いいっぽい?っていうか、もしかして妃奈は俺のこと…!?
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