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策を弄する
車が屋敷に着いた時、ちょうど里が歩いて帰るのとすれ違いそうになり、右京が車を止めてウインドウを下ろした。
「里、急ぐ?」
「いや…明日、3限目だけだからそうでもないけど?」
「ちょっと聞きたいことがあるからさ、中に戻って」
それだけでくるっと踵を返す里は俺と右京の弟のようでもある。
屋敷の玄関は広く、ひとつだが、そこから廊下を右へ進むと組員たちの生活スペース、左へ進むと親父や俺、そして近い者たちのスペースになっている。どちらへ進んでも曲がり角がある廊下は中庭を囲むような設計だ。
「飲むの?」
だだっ広いLDKのソファーに座った俺たちにキッチンから里が聞く。
「飲むよ」
「みんな1本だけにしときなよ?」
右京の返事にすぐ缶ビールを3本持ってきた里は
「こんな時間に酒盛りして、腹が出てみっともないオッサンにはならないで」
と続けた。
「労ってくれるところ、早速ですが…里」
「何?」
「繁華街で見ることのある、里くらいの年齢の女性…でも学生には見えないですね…」
「学生ではないかな。黒ってイメージの美人。あれ、顔もちっちゃいから余計に黒に埋もれてるんだよ。知ってる?」
「…髪型は?」
「黒髪ロングです。肩甲骨辺りまではあるでしょうか、若?」
「若?若に何かしてきた?」
「全く接触していませんよ」
「なのに、若?」
「前髪を作ってないロングで何とか学生に見えないが、ゾクゾクする美人」
「ああ…そういうこと…」
里が俺の言葉に頷き、右京が呆れたように鼻で笑った。
「あんな美人がフリーなわけないだろう?」
「そこは関係ない。切ればいいだけの話だ」
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