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夜20時頃に里をまるへ行かせて店内の混雑度を確かめる。繁華街の裏手の駐車場で俺と右京、野沢が乗る車を挟んで2台の車を止め
「滞納金回収対象者を待っていた頃を思い出す」
と右京が呟くと
「大した回数、やってないでしょう」
と野沢が眼鏡をくいっと上げた。
‘ちょっと空いた。カウンターは空いたから来て’
里からメッセージが来ると
「出る」
俺が一番に車を降りる。
「マジで先に出るのやめろよ、やめて…下さい、若」
慌てて車を降りてスーツのボタンを閉めながら俺の僅かに左前に立つ右京と、隣の車に合図しながら俺の僅かに右後ろへ立つ野沢。そして車から二人ずつ降りて来た4人の組員は少しだけ間隔を開けて歩く。これが繁華街を見回る時の基本的な形だ。もちろん、車を見張っておく組員は残っている。
いつもならここから繁華街へ入ると、奥へ向かうのだが今夜は反対側へ向かって歩くので、見知った顔たちは一瞬不思議そうにするものの
「お疲れさまです」「おはようございます」「こんばんは」
思い思いに声を掛けてきた。それに片手を上げて応えるのは右京の役目だが、無駄に声を出しては応えない。部分的に見た奴らが、俺たちが特別扱いする者や店があるというように受け止めると店同士の力関係のバランスが崩れかねない。だから外で応じることはなく、定期的に店を見回るのだ…この、まる以外の話だが。
「違う子だったら笑うな」
そう言ってからすりガラスの引き戸を引いた右京は
「こんばんは、ゲンさん。ご無沙汰してますが変わりありませんか?失礼します」
とピシッと止まって一礼してから1歩中へ入ると、体を横へ避けて俺を通した。
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