感情、知性の複合体

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待ってねぇよ、と思いつつドアを見つめていると 「こんばんは」 右京が最短の挨拶をしてから俺と同じようにドアを見つめる。この女の脳ミソが都合良すぎるから、今日は分かりやすくダメージを与えつつも次への期待を持たせる。全ては玖未のためだ。 「玖未、まだですか?ご一緒じゃなかったんですね」 「仕事でしたから」 ドアを見つめたまま答えた右京が 「わぉ、玖未ちゃん。ブラックドレスでゴージャスっていい女丸出しじゃん」 と声を上げ、同時に手も上げた。 俺が歩く時と同じように、半歩左前に大西、半歩右後ろに津川を従えて歩く玖未はその二人のブラック感に負けない冷たい無表情であり、艶やかな黒…名前通り‘黒い美しい石’だ。 「玖未」 俺がゆっくりと玖未に向かって足を進めると、右京と野沢も周りを見ながら足を進める。大西も周りを見ながら少し横へずれると 「似合ってんな、玖未。綺麗だ」 玖未の頬を撫で額に唇を落とした。 「…裕子さんのおかげ」 「玖未さん、裕子から連絡がありました。お心遣いを頂いたと喜んでいました。ありがとうございます」 野沢が女に見えるように、玖未に向かって美しい最敬礼をする。だが… 「…ん」 玖未の発した音で、皆がクスリと笑うものだから、この場の黒が一気に明るくなってしまった。
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