感情、知性の複合体

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「基本的にはビール一択なんですよ」 そうニコッと笑う舞花の目元は瞼がパンと張ってるのか、頬肉がちょっぴり圧迫気味なのか、少し目が小さくなったように見えるけれど、明るく‘ビール一択’と答えてシャンパンも飲めるならアルコール制限があるようでもない…元気なら一安心だね。 「庶民居酒屋や大衆食堂に欠かせないよね、ビール。一択ならここでも飲んでいいですよ?」 「ありがとうございます、本間さん。でもこれでいいです」 舞花はそう言うとコクコクとシャンパンを飲んだ。心配が無くなれば、私は初めてのお料理を食べるのに忙しい。 キングサーモンのマリネは季節野菜とかぶのソースを添えてあるらしい…サーモンのマリネは珍しくないかと思ったけれど、大きなプレートの中央に一直線という風にアルファベットの‘I’を描くような盛り付けがされている。季節野菜もお昼に私が摘まんだミントくらい少しずつ飾られているのだ。 「ん?玖未?」 「玖未ちゃん、笑ったよね?」 悠仁と右京に言われてハッとした… 「…初めて見た左右の余白に釘付けだったの…このプレートの余白に…こっちに新玉ねぎのピクルス…こっちにゆで玉子…とか乗せたくなるな…って…食堂の定食みたいに…」 「アハハ…さすが食堂歴が長い玖未だね。お料理じゃなく余白に釘付けっておもしろ~い」 そう笑いながら舞花はすでにナイフとフォークを持っている。私は悠仁を真似て、隣をカンニングしづらいなら右京を真似たらいいね…裕子さんが言ってたもの… 「社長も本間さんもビジネスシーンではとても紳士な振る舞いよ。今日のようなお出掛けではいいお手本だからね」 と。その通り…二人はシャンパンを持った人が部屋に入って来た時に一旦私を見て小さく目で合図しながら、ゆっくりと目の前のナプキンに手を伸ばして広げるように示してくれたの。
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