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「クイーンイヴのママと店の奴だな…邪魔だって…」
繁華街から出る車をゆっくりと運転する本間右京がさらにスピードを落とす。
「一緒にいる、あの美人はママの娘か?」
「ママに娘がいるとは聞いたことがありませんけど」
右京に答えたのは助手席の野沢貢。年齢は違うがどちらも俺の秘書だ…表で言うならば。
藤開発株式会社。いわゆるフロント企業というものの社長が表の俺。
東日本最大極道 須藤組若頭 須藤悠仁
これがこの繁華街での俺で、右京と野沢は側近となる。
「若はご存知ですか?」
「知らねぇ…」
「見てもないだろ。一人で歩いてるのは見たことあるな、あの子」
「私もありますね」
年上の野沢が一番丁寧に話す車内から、誰のことだと思い外を見る。ちょうどクイーンイヴのママが車に向かって頭を下げるところで、その隣の黒い女と目が合った。
実際には目が合うはずなどない。この黒塗りの中が見えるはずがなく、女からは俺が乗っていることさえ見えていない。わかっているが、はっきりと目が合ったとも思い、後部座席から後ろを振り向くと
「どうかされましたか、若?」
野沢も俺を振り返る。
「あの女、特定」
「今、聞いてきましょうか?」
野沢の声に右京がブレーキを踏んだ。
「いや、頭を使えよ…考えろ。相手によっちゃ真っ直ぐではダメだろうが。帰る」
「はぁ?」
俺が帰ると言っているのにブレーキを踏んだまま右京も俺を振り返った。
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