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「悠仁、どうした?」
「…」
「右京、車を出して下さい。ここで目立つのは若の思惑にそぐわないようです」
どうもしていない。
だが、俺と同じように全身を黒で覆った女の黒がとても冷たく見えた。コートを着ている、それさえも冷たく見える黒…それが俺を熱くさせる。
欲しい…吐く息さえも冷たそうな女に、熱い吐息を吐かせたい。俺と同じ熱を持たせたい。
「マジかよ…30になった途端にって…親父には?」
ミラー越しに何かを感じたのか右京が聞く。
「まだ」
「では私と右京で。私たちが動いて‘須藤’となるのは今のところよろしくないようなので里を使います」
「ああ」
里は野沢の息子だ、たぶん…女に生後半年くらいの里を‘あなたの子だ’と押し付けられた野沢はDNA鑑定を勧める周りを押しきって、鑑定もせずさっさと自分の籍に入れた。
‘自分がこれまで遊んだ結果です。一人くらい、一人前に育てるのが筋でしょう。母親も消えたのですから’
里之という名と生年月日だけ書かれた母子手帳とともに須藤の屋敷に来た里は21歳になる。中学を出ると、屋敷近くのアパートを借りて高校に通わせたのは住民票の住所が須藤の屋敷では都合が悪いこともあるだろうという野沢の親心だ。里はずっと屋敷に出入りしているが、まだ組員には名を連ねることなく大学へ通っている。
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