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【序 独り言】
小さな男の子が木の下に立っている。まだあどけなさの残る幼い顔には驚きの色が浮かんでいた。
お願いです。男の子の前に立つ少女が言った。どうかわたしを壊してください、と。
どうしてそんなことを言うの?
男の子が訊ねると、少女は寂しそうに笑った。
小さな二つの影を見下ろして、大きな木はくたびれた枝を揺らしていた。
○
彼の地には魑魅魍魎が跋扈している。歴史のある街には、同じく歴史のある者達が住んでいる。
例えば、神々。例えば、妖。例えば、幽霊。
街を歩く人々の目に映らなくとも、彼らは古都に住み着き、時に人の目を盗んで、時に人を装って暮らしていた。そして時に、彼らをその目に映す人間に出会うこともある。その出会いが呼ぶのは、吉事か凶事か。
修学旅行、京都へ行かれるそうですね。良き者がほとんどですが、母数が多ければ悪しき者も多くなるでしょう。どうか気を付けて。
本当は私も同行したいのですが……。
日程表のコピーを確認しながら、私は鳥居を潜った。
連絡、しっかり届いていますように!
これは誰かが見た景色。
星の巡る街が歌う長い歌の、ほんの一節。
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