弐 修学旅行開始!

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 星影駅よりも長万部駅の方が近い一部の生徒は直接長万部に向かっている。とはいえ星影集合の生徒の方が多いのでかなりの人数が駅前で蠢いていた。各々の荷物が大きいため随分と場所を取っている。 「お! 晃一ぃ! おはよー!」 「……おはよう」  五組がたむろしている辺りに行くと、早速栄斗に見付かってしまった。静かに近付いて点呼の完了を待つつもりだったのに。  栄斗が制服の上に羽織っているジャンパーには『KUREKAGE SHRINE』というロゴが描かれていた。例大祭の時にスタッフに配っていたものである。これを着て古都の寺社を訪れるつもりなのだろうか。 「それを着て行くのか」 「今年のデザインかっこよくて気に入ってるんだよなー」 「例年と同じように見えるんだが」 「ロゴに気合が入ってるだろ。見て分からないのか」 「そういうのはよく分からない」  栄斗はロゴを見せ付けるようにジャンパーの胸元を少し引っ張った。 「他の神社に入って大丈夫なのか」 「あー、大丈夫だろ。神様は寛大だからこんなの気にしないよ。そもそもただのジャンパーだし。それに別の神社の御朱印帳持って別の神社行ったり、別の神社の御守り身に着けたまま別の神社行ったりするじゃん」 「なるほど?」  神社もお寺も楽しみだな、と栄斗はしみじみ言う。御朱印帳も用意しているそうだ。寺社に関心があり、まるで神社の息子のようである。  そろそろ時間なので班員を確認するようにと先生から声がかかった。人数の確認が済んだらいよいよ出発だ。  俺達の班は四人。俺と、腐れ縁幼馴染みの栄斗と美幸(みゆき)、そしてすっかり馴染んでいる日和(ひより)。クラスのマドンナということになっている日和は引く手数多だったが、本人が「美幸ちゃんと一緒がいい」と言ったため美幸と同じ班ということになった。そして俺には栄斗と美幸と異なる班という選択肢など与えられていない。結果的にいつも通りの四人である。  がやがやとしている生徒の間を縫って美幸と日和が姿を現した。柄物のかわいらしいスーツケースの美幸と、メタリックでごついスーツケースの日和。 「ハルくん! こーちゃん! おはよーう!」 「おはよう、朝日(あさひ)君、小暮(こぐれ)君」 「おー! おはよ、美幸、東雲(しののめ)ちゃん」 「おはよう」 「あ! ハルくん神社のやつ着てる! 神社の人みたいね!」 「いや神社の人なんだけど?」  揃ってるから先生に言って来るねー、と言って日和が荷物を置いてからいなくなる。班長に率先して立候補したのは日和だった。栄斗と美幸を見ているだけで大変なのに班長の仕事まで任されると俺は修学旅行どころではない。日和がノリノリで班長になってくれて助かった。  マドンナよろしくクラスメイト達に声をかけられながら日和が戻って来る。 「朝日君、時田先生が『小暮と(あけぼの)をくれぐれもよろしく』って」 「はいはい……」 「楽しみだね、修学旅行! あたしわくわくして昨日の夜なかなか眠れなかったんだよね」  子供か。
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