参 京都へ!

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参 京都へ!

 函館空港に到着してから搭乗までやや時間がある。その間に長万部班と一緒に改めて簡易的な出発式を行った。大きな駅や空港が近くにあれば全員でその場に集合できるのだろうが、星影の交通アクセスはお世辞にもいいとは言えない。汽車の来る時間が限られているため別々に集合する必要がある。そして長万部駅で場所を占領するわけにはいかないので、全員がしっかりと揃って挨拶をすることができるのは函館に着いてからとなる。  星影高校二年生全クラス全員がいることを確認し、一行は飛行機に乗り込む。初めて飛行機に乗るという生徒もそれなりにいて、席に着くなり機内を見まわしたり窓の外を見たり賑やかである。  俺は幼稚園児の時に内地に住む親戚の結婚式に出席するために家族で乗ったことがあるそうなのだが、ほとんど覚えていない。そのため、感覚としては初めての飛行機である。無邪気に外を眺めてもいいのだが、隣に座っている栄斗が羽目を外さないように見ていなくてはならない。 「どうした晃一、飛行機怖いのか」 「おまえが羽目を外さないように見ている」 「そんなに俺が心配かよ。大丈夫大丈夫、飛行機には慣れてるからさ。後ろではしゃいでる美幸と東雲ちゃんより静かにしてるって」 「慣れているのか」  栄斗はにやにや笑いながら機内に持ち込んでいるリュックを開けた。中から出て来たのは美しい刺繍が施されている巾着袋だ。本か何かが入っているのか、巾着は平たい。 「御朱印帳」 「スーツケースに入れていなかったのか」 「スーツケースはホテルに届くだろ? 入れてたら今日使えないじゃん」  巾着もとい御朱印帳袋から御朱印帳が出て来た。暮影神社で受けることのできる星空柄のものだ。 「内地の神社までお参りに行ったことが何度かあってさ。これも結構埋まってるんだぜ。見返すと参拝した神社のことを思い出してさ、神様に思いを馳せてさ……。ありがたいよなぁ。修学旅行でもきっといい縁を結ぶことができるぞ。楽しみだな。それに、色々な寺社を訪れることは勉強にもなるよな」 「……神社の人みたいだな」 「いや神社の人なんだよ!」 「そこー、小暮静かにしろー」 「なんで俺だけ!」 「朝日もちゃんと小暮のこと見ておけよー」 「……はい」  時田先生は五組が全員搭乗しているのを確認してから自分の席に座った。まだ若い我らが担任時田教諭は今回が初めての修学旅行だそうだ。いつもより少しテンションが高いように見える。  静かにしてるから、現地着くまで休んでていいぞ。栄斗はそう言って御朱印帳袋をリュックにしまった。俺自身が楽しむためにも、栄斗と美幸を見る体力を残しておくためにも、飛行機の中では休息を取っておくべきかもしれない。  離陸と共に小さな歓声が上がる。大阪まで約二時間。持参した昼食を食べた後、俺は座席に凭れて目を閉じた。
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