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ぐっすり眠っていると体感時間というものは非常に短く感じられ、目を閉じたと思ったらすぐに栄斗に起こされてしまった。「ぐっすりだったな。昨日の夜寝てないのか?」と笑われた。原因はおまえだ。
空港からバスに乗り、京都へ向かう。途中、かの有名な太陽の塔の姿が車窓から見えた。金色の一番上の顔が壁の向こうからこちらを覗いていた。少し不気味だが、綺麗なものである。美幸は「思ってたよりキモイ」と言っていたが。
かくして、俺達は京都に到着した。バスに揺られて辿り着いたのは金閣寺だ。添乗員さんの案内で途中まで説明を受けてから、鹿苑寺境内は一応自由行動となる。
「朝日君、一緒に回ろうね」
「あぁ」
「何か探してる?」
「いや、別に……」
紫苑の代理は金閣寺で待機していると聞いている。周囲にいるのは生徒と教師陣と添乗員さん、あとは皆観光客らしき人々のみである。この中に代理のものがいるのだろうか。
そういえば紫苑は相手に細かい時間を伝えているのか?
「朝日君、それミサンガ? 最近着けてるよね。なんか意外」
腕時計を確認していると、日和が紐を指差しながら言って来た。
「『ふん。俺は論理的なことしか信じないから、こんな願掛け興味ない。非科学的だ。効果を証明してみせろ。ふっ』とか言いそうなのに」
「おまえは俺を何だと思ってるんだ」
紫苑がくれた紐。これに頼らなくてはならない事態は起きないでほしい。
「知り合いに貰って……。旅の無事を祈って」
「へぇ、いいなぁ」
俺は改めて周囲を見回す。境内はそれなりに広い。しかし、奥の方にいるとは思えない。すぐに見付かると紫苑が言っていたのだから、分かりやすい格好で分かりやすい場所にいるはずだ。
近くにいる人々は老夫婦、親子連れ、外国人グループ、老人のグループ、そして地元の小学生らしき集団だ。紫苑の代わりなのだから件の人物も神使なのだと思われる。ところが、それらしい人物は見当たらない。
「よし、じゃあそろそろ行こうぜ。晃一ぃ、何ぼーっとしてんだよ早く早く」
「あっ。あぁ、悪い。すぐ行――」
「あなたが朝日晃一様ですね!」
小学生のグループから男の子が一人飛び出して来た。ブレザーにハーフパンツ姿で、私立小学校の児童のような装いの男の子だ。よく見ると他の小学生が着ている制服とはデザインが異なる。そして彼が勝手に動いても周りの児童も教師も誰も気にしていない。まるで認識していないかのようだ。
男の子は飛び付くようにして俺の腕を掴んだ。
「『朝日君』、『晃一』、つまりあなたが朝日晃一様! お待ちしておりました朝日様!」
「こ、子供……」
早く早くー、と栄斗と美幸が手を振っている。日和はその横でにこにこしている。三人共俺のことだけを見ている。つまりこの男の子の姿は見えていないのだ。
ということは、この子が……。
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