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「晃一ぃ、早くー」
「今行くから騒ぐな。……おい、あんたのことは道中聞かせてくれるか」
「はい!」
男の子は上目遣いに俺を見ながらこくこくと頷いた。俺の歩幅に合わせてやや早歩きで付いて来る。
紫苑の代理というから、てっきり大人のカラスが現れるのだと思っていた。隣を一所懸命に歩いている男の子はどう見ても大人ではないことは明らかで、黒髪ではあるものの黒い翼も生えていない。代わりに、小さなふわふわした黄色い翼が揺れていた。子供の体とはいえ、飛ぶのには心もとない大きさの翼である。
周囲に人がいるため返答は不要だということを告げてから、男の子は口を開いた。
「こんにちは、朝日様。紫苑様に命じられて馳せ参じました。不束者ですがどうぞよろしくお願いします! ぼくは鳴照日夜呼々鶏、ひよ君って呼んでください!」
道なりに進んでいくと、金閣として有名な舎利殿が見えて来た。栄斗と美幸がはしゃぎながらスマホで自撮りを始める。
「朝日君、あたし達も写真撮ろうよ」
俺の携帯電話はガラケーなので画質のいい写真を撮ることができない。しかしいい写真は撮りたいのでデジカメを持って来ている。近くにいたクラスメイトにデジカメを渡し、四人の写真を撮ってもらった。
「朝日ってまだガラケーなのなー」
「いいだろ壊れてないんだから」
「でもデジカメはいいの撮れそうだよな。はい、撮れたよ」
デジカメを受け取ると、早速確認しようとして栄斗と美幸が画面を覗き込んで来た。
「プリントしたらくれよな」
「こーちゃん、集合写真とかはこのデジカメで撮ろうよー」
「じゃあそうするか」
舎利殿を過ぎて少し登って行くと、やがて不動堂に辿り着いた。不動明王が鎮座ましましているそうだが、節分とお盆にしかその姿は拝めないのだという。スケジュールは守るべきなので残念だが仕方ない。
お堂の周りは広場のようになっており、人々が足休めをしていた。御朱印をいただきに行くと言って栄斗が離れた。それに合わせて、俺も美幸と日和から少し距離を取った。人ごみに紛れるようにして朱印所の影で待つ男の子の元へ向かう。
元気よく手を振って自分をアピールする男の子。小学生と一緒にいて全く違和感がなかった外見は五、六年生くらい。妹と同じくらいだろうか。声変わりもしておらず、少年というよりやはり男の子である。
「朝日様、朝日様っ。改めまして鳴照日夜呼々鶏です」
「ひよ君」
「はい、ひよ君です」
「ひよは紫苑に頼まれてここに?」
「はい! 伊勢のニワトリ……ヒヨコです。ぼくはまだ見習い神使なんです。こんなぼくを紫苑様が指名してくれるなんて、とっても嬉しいので頑張ります」
ひよは「えへへ」と笑っている。この小さな子に紫苑の代わりが務まるのか? しかし、この子も見習いではあるものの神使なのだ。それなりに力を持っているのかもしれない。
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