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「ひよは紫苑とはどういう関係なんだ」
「えへへ……。紫苑様はぼくの憧れなんです。といっても、ぼくが知っている勇姿は伝聞に過ぎないんですが……。由緒ある希の一族の出で、若くして頭角を現し、お仕事で大活躍して、みんなから褒められてすごかったって聞いています。ぼくも若鶏のうちにあれくらいかっこよくなりたいです!」
あのポンコツ天然のような紫苑に憧れる子供がいるらしい。確かに神様然としている時は威厳があって畏敬の念を抱くが、普段の様子を見ていると子供に羨望の眼差しを向けられているなんて想像できない。
「ただ、ぼくがあの方に出会ったのは八十年ほど前で、聞いていた話とは随分違っていましたが……。あれは、綺麗なだけの普通のカラスでした……」
ひよが少し俯いたところで、俺は背後から栄斗に声を掛けられた。そろそろ下りるらしい。駐車場近くの売店前に集合し、人数確認が済めばバスで清水寺へ出発である。
ひよは美幸と日和の元へ戻って行く栄斗の後ろ姿を興味深そうに見ていた。大きな目がさらに見開かれる。
「あの人、神社の人ですね」
「そうだが」
「いい神職さんになりそうですねー」
「そうだろうか?」
「よし、そろそろ移動するんですね。もちろんぼくも行きますよ」
「バスの座席は限られている。子供の姿でも乗るのは難しいと思うが、どうやって付いて来る予定なんだ」
「それはこうして……」
ひよの姿がヒヨコに変わった。ふわふわのかわいらしいヒヨコである。首に紫色の勾玉を付けている。
「ぴよぴよ」
「ヒ、ヒヨ……コ……」
「リュックの横にポケットがありますよね。メッシュの。そこに入れてくださいな。大丈夫ですよ、他の人には見えていませんから」
「そうか」
優しく扱わなければ壊れてしまいそうな小さなふわふわを掬い上げ、リュックのペットボトルホルダーに詰める。メッシュの隙間から黄色いふわふわがはみ出している。
夕立の姿は人の目に映る。しかし、このヒヨコは人の目に映らないらしい。何か違いがあるのだろうか。
「晃一ぃ、早く早くー」
「今行く」
リュックを背負い直して、俺は人ごみの中に飛び込んだ。
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