壱 下鴨に舞う翼

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 美幸から団子を受け取る。思ったよりもしっかりした団子である。もちもちというよりはもっちりといった感じだ。みたらしのたれもとても美味しい。  次のバス停まで歩きながら団子を食べる。 「朝日様、ぼくもお団子ほしいです」  男の子の姿になったひよが団子をねだる。俺は目を輝かせている幼子に団子を恵んでやらないほど冷たい人間ではない。最後の一個が残っているのを串ごと渡してやると、ひよは嬉しそうに小さな団子を口一杯に頬張った。 「んむ、おいし……」 「よく噛んで食えよ」 「むん」  地図を見ながら先頭を歩く日和と、五本入りだったため残りの一本を誰が食べるか話し合っている栄斗と美幸、そして隣を歩いているひよ。一緒に行動する面子を改めて確認してから、俺は周囲を見回す。  ひよはできる範囲で俺の周りを警戒し続けてくれている。人ならざる者達は確かに多いが、俺に興味を持つ者は今のところほとんどいない。危険な妖には絡まれていないし、近付くのを許してしまったのも茅が対応してくれた小物くらいである。神社仏閣が多く数多の者達が跋扈しているからこそ、俺の神力もその中に紛れ込んでいて目立っていないのかもしれない。紫苑は心配していたがそれほどでもなさそうだ。  しかし、油断は禁物である。みんなと楽しみつつも、気を緩めすぎないようにしなければ。楽しい時間を過ごすために。 「朝日様、ヒヨコに戻るのでリュックに入れてください」  串を俺に返し、ひよは立ち止まる。姿が小さな黄色いふわふわになる直前、ひよは大きな瞳でまっすぐに俺を見た。 「朝日様。ちゃんとあなたを守っ……。……ううん。楽しい旅にしましょうね!」  羽の塊を掬い上げる。リュックのサイドポケットに入れる前に、俺はその小さな頭を指先で撫でてやった。
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