弐 北野の梅

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 梅枝はひよの頭を撫で続けており、ひよもまだ撫でてほしいようだ。 「……あの、そろそろ行かないと友人が心配するので」 「おぉ、そうかそうか。呼び止めてしまってすまないな」  ひよを引き剝がして抱き上げる。すると、梅枝の手の中でひよがヒヨコの姿になった。そのままひよを俺の肩に載せてくれる。 「人の子と共に過ごせば夜呼々も何か得るものがあるだろう。有意義に過ごすように」 「えー、でも朝日様はたっぷり楽しんでいいって」  俺は会話を偽装するために手にしていた携帯電話をしまい、肩に乗る黄色いふわふわを指先で撫でる。 「子供は楽しんでいる方がいいですよ。俺だって修学旅行だから楽しく過ごしたいし」 「君がそう言うのなら構わないが……。夜呼々、迷惑をかけないようにするんだぞ」 「はーい!」  梅枝に軽く一礼してから、俺は社務所へ向かって歩き出した。  丁度栄斗が御朱印をいただいたところらしく、御朱印帳を確認している。俺に気が付いた美幸がこちらを向く。 「こーちゃん、こっちこっち。もう、勝手にいなくならないでよね。小さい子じゃないんだから」 「おまえに言われても説得力がない」 「なによー、わたしが子供だって言いたいの」 「いなくなるだろ、おまえも栄斗も」  これまで何度俺がおまえ達を探してやったと思っているのだ。  小さな歩幅で三人仲良く出かける度、俺はいつものように栄斗と美幸のどちらかを視界から外した瞬間に見失い続けた。片方がいると思えば、片方がいない。残っている方を連れてもう片方を探した。 「こーちゃんも来たし! じゃあ、いよいよお昼ご飯ね!」  立ち寄る飲食店は美幸がガイドブックから選んでくれている。昼食は北野天満宮から少し行ったところにあるうどん屋で食べることになっている。門の方へ向かって歩きながら、美幸はスマホに指を滑らせた。歩きスマホはしない方がいいぞ。 「待て待て、境内を軽く散策する予定だろ」  画面に表示された地図によると店には数分で着くらしい。境内を散策してからでも昼食の時間には十分間に合うし、そもそも散策は予定にしっかりと入っている。  お腹が空いたと言う美幸を引きずって、俺達は北野天満宮の境内を反時計回りにぐるりと回った。橋を渡った先では紅葉が色づいており、絶好の撮影スポットになっていた。もう少しするとさらに色が綺麗になるだろう。  そうして、午後一時頃に目的のうどん屋に辿り着いた。 「茅様の言っていたような御神木は北野天満宮にはありませんでしたね」  俺のどんぶりから数本うどんをくすねながら、ひよが言った。  神社に行けば大抵御神木がある。茅は御神木を探せと言っていた。わざわざ探さなければならないということは、何か他の木とは違うところがあり、隠れていたり見えづらかったりするということだ。周囲より特別神聖な気配がしたり、不審な感じがしたりする木は見える範囲にはなかった。  神社を後にする時に鳥居のところで梅枝が見送ってくれた。その際にひよが御神木について訊ねたが、梅枝は首を横に振るだけだった。「珂彌怒鵄の考えていることは儂には分からんよ」と。
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